【第329回】 舌と息づかい

稽古は、ただやればよいというものではない。課題をもって、その解決に努めなければならない。解決しなければならない課題はいくらでもあるはずだから、課題を持たないで稽古しているとすれば、おかしいはずである。いつも同じ問題に繰り返しぶつかれば、それは解決しなければならない課題にならなければならない。

合気道の稽古は一年中を通してやるので、寒い冬も暑い夏も稽古をすることになる。だが、季節々々での稽古の課題は違ってくるはずである。冬は寒い、冷たい、体が硬いとか痛いといい、夏になると、暑い、湿気が多い、息が上がる、バテる、などと不平を言っていても、意味がない。それでは、せっかく暑くしてくれる夏さん、寒くしてくれる冬さんに失礼で、申し訳がないだろう。夏は暑く、冬は寒いが当り前で、自然であるはずだ。

暑いとか寒いとか、稽古しない一般人のように不平をいうのではなく、稽古人は夏の暑さ、冬の寒さに感謝しながら、稽古するようにならなければならないだろう。その暑さ寒さがいい稽古になり、いろいろと教えてくれるのである。

暑い夏の稽古での最大の問題は、喉(のど)が渇くことだろう。この原因は、大量の汗をかくのと、咽頭が渇くことであろう。今回は、咽頭を乾燥させずに、喉の渇きをできるだけ防ぎ、暑い夏でも快適に稽古をする方法を研究してみよう。

通常、呼吸をするときは、鼻から空気が入り、咽頭を通って、喉頭部、気管、気管支、肺へと送られる。咽頭は、口腔と食道の間に位置し、鼻部・口部・喉頭部に分かれる。

口からでも呼吸はできるが、口で呼吸をすると咽頭が乾燥する。口で長時間呼吸をすると、咽頭の乾燥により稽古を続けるのが厳しくなることがある。

咽頭を乾かさずに湿らせておけば、喉の渇きを抑えることができるし、息も上がらず、稽古が楽にできるだろう。

咽頭を乾かさないためには、まず、先述の「口で呼吸を」しないことである。さらに、もうひとつ方法がある。それは舌の位置である。つまり、舌の位置を正しく保つことである。その正しい舌の位置とは、舌先が上前歯の付け根に、舌全体は上顎にくっついている状態である。この舌の状態を保って稽古するのである。

そうすれば咽頭の鼻部、口部、喉頭部が水分で潤って、喉の渇きは少なくなり、疲れも少なくなるはずである。夏にこれができれば、他の季節の稽古は楽勝であろう。

これも暑い夏が課す課題の一つであり、教えである。暑い夏に感謝々々。