【第327回】 股関節をゆるめる

技の練磨をしながら精進する合気道は、体のすべての部位を使って稽古するようにできている。そのため、体のすべての部位を活性化させることができるはずである。もしある部位を使っていなければ、技はうまくからないだろうし、その部位が放棄した仕事を他の部位が負担することになるから、負担過剰になって、他の部位が悲鳴をあげることにもなる。

合気道だけでなく、人が仕事をする際は手でやるわけだが、その力は主に腰腹からくる。腰腹から手先への力の流れがなければ、大きい力も出ないし、美しくもない。踊りやダンスでも、茶道でお茶を点(た)てる動作、華道の花を生ける動作でも、野球のバッティングや投球、ゴルフのスイング、砲丸投げなども同じであろう。この法則は合気道だけではなく、他の分野でも通用するものであり、だから「法則」のはずである。

腰腹の力は、じっとして念じていたら出てくるわけではない。股関節を使うことによって、出てくるのである。合気道でうまく技をかけたいならば、この股関節をうまく使わなければならない。

股関節をうまく使うためには、まず股関節の重要さを意識することである。意識すればそこと結ばれ、そこと愛で対話ができるはずである。

そして、股関節と対話をしながら、意識と息に合わせて、ストレッチ運動で柔軟に伸ばしたり、坐技呼吸法や技で股関節が強靭で柔軟になるように、鍛えていけばよい。

ある程度、股関節が柔軟になれば、技においても働いてもらえるようになる。体の中心にある腰腹は、体の最大パワーの発信基地であるから、股関節には大きい働きがあるはずである。

その働きとしては、まず腰腹からの遠心力を手先まで流すことである。前述のように、大きな力が出るはずだ。

次に、撞木や入身転換で歩を進める際は、この股関節の左右へのスライドや上下前後の動きによって、体重が無駄なく使えて、隙なくスムーズに動けるのである。

早い動きには、足や手ではなく、まずこの股関節をつかわなければならない。早い動きは横(左右)の動きといえるが、さらに股関節は縦(上下)にも働く。この縦の動きは体重を重くしたり軽くする調整をする。

最後にもうひとつ、股関節のすばらしい働きを紹介する。股関節をゆるめることによって、相対稽古の相手との接点に、自分の体重がかかるようになるのである。

諸手取りや片手取り呼吸法で、自分のあげた手が相手の肩や首にぶつかって、相手を弾いてしまったり、相手に返されたりして、手が下りず、相手が倒れてくれないなど、多くの人が経験することだろう。

そうなると、手の力でなんとか相手を倒そうとするものだが、手では大した力が出せず、逆に相手が「おのれ小癪な」とがんばってくる。このような力は、いうなれば自分の力を自分で弾いてしまっているわけである。

この問題を解決してくれるのが、股関節である。あげた手が相手の肩や首に接したら、今度はそこが支点となるわけだから、その支点を動かさず、しかし結んだまま、股関節を緩めるのである。

ここを緩めると、接点でつっぱっていた手が緩み、腰からの力が緩んだ手先に流れる。接点はさらに相手にくっつき、その接点に自分の体重がのる。すると、相手に自分の全体重がかかることになる。つまり、自分の体が上から相手にのしかかるような状態になるわけだから、相手はとても耐えきれないと思い、倒れることになる。

股関節を柔軟にし、ゆるめて上手に使うことが大事であるようだ。