【第290回】 腰に手を結ぶ

前回、「手を腰にする」を書いたが、今回は予告通り、手を腰にするにはどうすればよいのかを書いてみることにする。

手を腰にし、そして手を腰としてつかうためには、また、それができるためには条件が幾つかある。

一つ目は、肩を抜くことである。肩がつまっていると、手から腰へ、腰から手への力の流れが止まってしまうので、手と腰は繋がらず、手が腰にならない。

二つ目は、手先と腰がつながっていて、切れないこと。手先をむやみに動かせば、その繋がりは切れてしまう。また、手先から動かせば、自分の腰だけでなく、相手とも切れてしまう。特に相手と接した瞬間には、自分の手と腰が結ばれていなければならない。初めは意識して、後では無意識でも、手先と腰が結ばれているようにすることである。

三つ目は、手の平がまっすぐ、まっ平らになること。指が曲がってまっすぐにならないと、腰には結びつかない。これは自分で試してみるとわかるだろう。摩訶不思議である。従って、技をかけた時に、手先がまっすぐでなければ、腰の力でやってないはずなので、技は効いていないということになろう。

四つ目は、手の平をまっすぐ、まっ平らにしても、腰までの関節や筋肉を固めないこと。力まず、固まらず、しかも自由に動かなくてはならない。これは表層筋ではなく、深層筋を使えということだろう。

五つ目は、手を折り曲げないことである。常に螺旋で、折れ曲がらないように、ロックして使わなければならない。

六つ目は、常に体の中心である腰から動くことである。末端の手から動かさないように、習慣づけるのである。手は体の中心線上にあるのが、基本であり、中心線上を上下するだけで、左右にずらさないことが大事である。

七つ目は、呼吸である。腰の息遣いに合わせて手をつかうのである。また、吐く息、引く息を間違えると、手と腰の結びは切れてしまう。

手が腰になったかどうかを確認するには、相対での稽古がよい。特にわかりやすい稽古だと思われるのは「片手取り転換法」であるので、それで説明して見る。

  1. 相手に手を持たせたら、ていねいなお辞儀をするつもりで、腰から上体をまっすぐ倒し、持たれた手を自分の腹に近づける。これで、それまで腰から解放されていた手が、腰と結ぶことになる。これはまた、相手も結んでいるはずである。慣れれば無意識でやっているはずだから、ここは飛ばしてもよいが、初めはここから始めなければ、次に進めないはずである。さらに、お辞儀から手と腰の結びつきの感覚を得たいのなら、「半身半立ち四方投げ」がよい。
  2. 手先、指先まで力を通し、手の平を伸ばす。十分に伸ばせば、手先と腰が結びつく。指がまっすぐにならず、ゆるんでいるようでは、腰に来ない。手先と腰が結べば、相手の力も腰で感じることになる。
  3. 手の平を上を向くように反し、接点にある手を先に動かさず、離れないようにしながら腰を中心に腰から転換する。手の平は、最初の垂直から水平に変わる。
この稽古で、相手が持った手に加わった力を腰で感じるはずであるし、腰と手が結んだことにより、腰で手を操作することができるようになるはずである。
この転換法を繰り返し稽古していけば、手と腰の結びつきはしっかりしていくし、腰が鍛えられることになる。

また、さらにここから「片手取り呼吸法」の稽古に入り、次に「諸手取り呼吸法」をやれば、さらに手と腰の結びつきが強化され、そして腰が鍛えられるはずである。

腰と手を結んで、体を使えるようになれば、得物をもってやるのもよい。ちょっと重めの鍛錬棒を振ったり、木刀での素振りである。鍛錬棒は、手首や肩を壊さないように、腰で振らなければならないし、木刀も腰で振らなければ、早く鋭く重くは振れないものである。