【第281回】 回旋腱板(ローテーターカフ)

力は腕から出るが、大きな力は体幹であり、下半身から出るものである。この下半身や体幹の縦からの力を横に変換し、その力を増幅、調整するのが肩甲骨であろう。そのために、肩甲骨は34の筋肉と結び合っているという。

合気道でも腕を鍛えるのは、それほど難しくないだろう。一教から五教やその他の基本技、さらに諸手取り等を力一杯稽古していけば、そこそこの力はつくし、腕を自由に動かせるようになるだろう。

肩甲骨も「第276回 肩と肩甲骨」で書いたように、鍛えていけば柔軟で繊細な働きをするようになる。

しかし、肩関節は人体で最も可動域が大きいだけに、腕(上腕骨)と肩甲骨の接合面に安定性が欠けることになる。だから、筋肉でこの不安定な肩関節を補強しなければならない。とりわけ強い力が加わる運動には、その補強が重要だ。この肩関節の安定を保つのが回旋腱板(ローテーターカフ)である。

回旋腱板は、肩甲下筋(けんこうかきん)、棘上筋(きょうくじょうきん)、棘下筋(きょくかきん)、小円筋(しょうえんきん)(図参照)の4つの筋で構成される。この回旋腱板は、肩甲骨の表と裏を包み込むように骨にくっついているインナーマッスルである。

インナーマッスル(深層筋)とアウターマッスル(浅層筋)は対になっているので、どちらか一方しか鍛えられていないとバランスが悪く、障害を起こすことにもなる。

従って、この両筋肉をバランスよく鍛えることが重要であるが、アウターマッスルを鍛えるのは容易なのに反して、インナーマッスルを効果的に鍛える方法は、今のところ確立されてないようだ。

インナーマッスルとアウターマッスルの両方をバランスよく鍛えることが出来るのは、合気道だろう。鍛えるというのは、筋を強靱にすることと、柔軟にすること、そして可動領域を広げることだろう。

また、合気道の技の練磨を通して、肩関節のインナーマッスルとアウターマッスルの両方を求心力と遠心力で、伸び縮みさせ弾力のある筋にできるはずだ。

肩関節は、外旋・内旋(腕を内向き、外向きに回す)、内転・外転(横に上げた腕を下ろし、又、内側にもってくる・腕を横に開く)、肩の屈曲・伸展(脇に下ろした腕をまっすぐ前方に上げる・まっすぐ後ろに引く)として動く。

この内の回旋腱板の肩甲下筋は、上腕を内転・内旋し、棘上筋は肩関節の外転、上腕骨を引きよせて、肩関節を安定させる。棘下筋は上腕を内転・外転・外旋する。小円筋は肩関節の伸展・内転・外旋として働くといわれる。

合気道の技は、これらの動きがすべて入っていると思うので、技の稽古をまじめにやっていけば、回旋腱板も肩関節の鍛えられるはずだが、さらに鍛えるならば、この動きに加重を加えて、技を掛けたり、受けで収めればいいだろう。

例えば、一教腕抑えの受身で、最後の収めをきっちり取れば、回転腱板を含む肩関節は外転・外旋するし、二教や三教の受身での収めでは、伸展・内転・外旋を鍛えることになる。また、諸手取り呼吸法は、内転・外転と内旋・外旋を鍛えることになる。

先述したように、肩関節が安定するように、回旋腱板が関節を補強しているが、その補強が肩関節の可動域を制限してしまうので、回旋腱板が肩関節の可動域を制限しないよう、可動域を拡げるようにしなければならない。そのためには、上記の二教や三教の受けをきっちり取ったり、諸手取り呼吸法をしっかりやるのがよいが、注意をしないと逆効果になったり、肩を損傷してしまうことになりかねない。

注意することに、息に合わせて伸ばすことである。息を下腹で吸う(引く)時に伸ばすことがある。さらに、収めるときには、下へ押しつけるのではなく、引っ張りあげるような遠心力を使うことである。遠心力の感覚は、諸手取り呼吸法でも実感できるだろうし、鍛錬棒を振ってもいいだろう。

また、深層筋を鍛えるのに、チューブを使うのがよいともいわれているが、浅層筋に力を加えずに、深層筋を引っ張れるので、効果があるようである。この感じで腕を使えば、回旋腱板の4つの深層筋が鍛えられ、弾性のあるしっかりした回旋腱板ができるかもしれない。

回旋腱板(ローテーターカフ)がしっかり鍛えられれば、肩関節もしっかりし、腕と肩甲骨、そして体幹としっかり結びつき、下半身や体幹からの力が腕に効率的に流れるはずである。大きな力が出て、技も掛けやすくなるものと思う。

参考文献
「カラー人体解剖学」 (西村書店)
「筋肉のしくみ・はたらき事典」(西東社)