【第280回】 “取り”の意味

合気道には相対稽古での攻撃法として、片手取り、両手取り、短刀取り、太刀取り等などがある。片手取りや両手取りとは、攻撃側("受け")が片手や両手をつかんで攻撃し、短刀取りや太刀取りは短刀や太刀で攻撃する。それを、受ける側("取り")が捌く技である。

合気道の基本技はそれほど多くないが、この攻撃法の"取り"が他の武道には見受けられないほど多い。というよりも、無限にあるといえよう。

合気道の基本は徒手であり、手で技を掛けるので、今回は基本的な片手での取りで「取り」の意味を考えてみたいと思う。

なお、片手取りというのは、自分の片手でどこかを掴むという一般的な攻撃法ではなく、片手で相手の手首を掴む攻撃法である。片手取りには、一教から五教、四方投げ、小手返し、回転投げ(内、外)等の基本技がある。

片手で相手を取る(掴む)典型的な技には、片手取り、肘取り、肩取り、胸取り等があるが、それ以外の箇所を取られても、技にならなければならない。つまり、体全体どこを取られても、技として対処できなければならないのである。これが合気道の特徴であるし、すばらしい稽古法と思う。

すばらしいという理由は、取られた部位を手としてつかうことによって、その個所を手のように自由に機能するように鍛錬していくことである。肘や肩や胸を掴まれると、そこを手のようにくっつけて、技を掛けてしまうのである。取られた個所を手で引きはがし、その手で技を掛けるのでは、片手取りの稽古と変わらなくなってしまう。これでは、肩取りや胸取りの意味がなくなってしまうし、肩や胸の修練にはならないことになる。

しかし、肩や胸を取られた時に、手をつかわないで技を掛けるのは、そう容易ではない。まずは、手をつかわずに、取られた部位で技を掛ける修練を、意識しなければならないだろう。

相手が取ったら(掴んだら)、その部位を大事に扱わなければ、技にはつかえない。まず大事な事は、取られている箇所を、はじめに動かさないことである。そこはくっつけておき、力の元である腰腹を動かして、そこを操作するのである。

また、腰腹と相手が掴んでいる箇所をしっかりと結び、連動するようにしなければならない。腰腹と結んでいなければ、取られた肩や胸が無秩序に動くことになる。

相手が掴んだ箇所を動かしてはならないことが、最も分かりやすいのが、「指取り」である。相手が指を取って攻めてきた場合に、その指をはじめに少しでも動かしてしまえば、痛いし、相手に折られてしまうこともある。だから、取られた指は動かさずに、腰腹で指を操作しなければならないのである。

息のつかい方も重要である。吐くと吸う(引く)を間違えると、指は大きなダメージを受けるはずである。

開祖がおられた頃は、今よりもっといろいろな個所を取った技の稽古をしていたものだ。指取りの他にも、首や髪の毛取りなどもあった。おそらく武道であるということを強く意識して、体の隅々までどこを取られても、手のように自由に動けるように鍛錬しようとしていたように思える。

合気道のせっかくのこの宝の「取り」を、今後とも大事にして、稽古に励んでいきたいものである。