【第276回】 肩と肩甲骨

人間の体の中で、一番自由に動く部位は肩であろう。肩は球関節の構造を持ち、腕を回したり、旋回させたり、上げたり下げたりなど、複雑な動作を可能にする。肩とは決まった部位ではなく、漠然とつかわれているのだが、一般的には、腕(上腕)と胴を結合している部分の上面をいっている。

肩は鎖骨、肩甲骨、上腕骨頭で構成されている。その中で武道で重要であり、鍛えなければならないのが肩甲骨であろう。

肩甲骨は、俗に"かいがらぼね"とも言われるように、三角形の形をした扁平骨である。薄くて、強く押せば骨折しやすいが、実際には厚い筋肉で覆われているので、骨折は少ない骨であるという。

それに、肩甲骨は鎖骨の外側端に関節として繋がっているだけで、他の骨との繋がりがないので、比較的自由に動ける骨であるという。

年を取ってくると肩が固まってしまうのは、この肩甲骨が固まってしまうせいであろう。街を歩いていると見かけるが、体が硬くなってきている高齢者は、必ず肩甲骨が固まっているといっていいだろう。合気道の稽古でも、この肩甲骨をいかに遣うか、いかに自由に動けるように遣うかは大事であると考える。

肩甲骨は多くの筋肉(34の筋肉とも言われる)と繋がっているが、腰腹の力を伝えたり、増幅すると思われる筋肉、菱形筋、広背筋、三角筋、僧帽筋とも繋がっている。

また、肩甲骨は鎖骨の1点でしか骨に繋がっていないわけだから、あとは筋肉で覆われたり、筋肉で繋がっていることになる。従って、肩甲骨を遣う事によって、それと繋がっている筋肉にも働いてもらえることになるだろう。つまり肩甲骨の遣い方によって筋肉の働きが違ってくることになる。

肩甲骨がよく働くためには、すこしでも自由に動くようにすることである。自由に動くということは、それに繋がっている筋肉を柔軟にすることであり、言葉をかえれば、他の筋肉に動きの邪魔をさせないことである。

強い腕からの力を支えるのも、腰腹の力を腕に伝えて微妙な力加減をするのも肩甲骨といえよう。

「肩甲上腕リズム」という専門医学用語がある。腕と肩甲骨の動く比率は2:1であるという。つまり、腕を横に挙げた時、腕は90°動いたように見えるが、実際には腕は60°しか動いておらず、残りの30°は肩甲骨が動いているという。

これを武道に応用すれば、肩甲骨を先に動かせば、腕はその2倍動くことになるので、腕を先に動かすより、腕は2倍の速度、2倍の力がでることになるはずである。

技は手先からではなく、肩甲骨から遣い、肩甲骨が自由に働くために、肩甲骨に繋がっている34の筋肉を柔軟にしなければならないだろう。

そのためには、肩甲骨に付加を掛けて筋肉を柔軟にしなければならないだろうが、通常の木刀や鍛錬棒の素振りでは、求心力が働いてしまい、筋肉も肩甲骨も固まってしまう危険性がある。肩甲骨と筋肉に付加をかけるにしても、遠心力がかかるようにするとよいだろう。それには鍛錬棒、木刀、水を満たしたペットボトルなどを片手で、遠心力により肩甲骨とそのまわりの筋肉が引っ張られるように振るとよいようだ。