【第275回】 深層筋
人の体には多くの筋肉があり、それを幾つかのグループに分類できる。その中に、筋肉を体の深さ・浅さによって分類するものがある。表層筋、深層筋である。表層筋は体の表面近くにある筋肉で、深層筋は体の深部、骨に近いところにある筋肉ということである。
表層筋と深層筋の間には中層筋があるが、これらの筋肉は繋がり合い、絡み合い、連動しながら働いているので、どれが深層筋でどれが中層筋、表層筋と厳密には分けるのは難しいだろう。
もちろん、筋肉の一般的な分類と特徴はある。
今回のテーマとなる深層筋に関しては、次のようなことがいわれているようだ。なお、最近では深層筋をインナーマッスル、表層筋をアウターマッスルともいうが、ここでは深層筋で統一しておく。
- 深層筋とは、体の内部深い所にある筋肉で、つまり骨格に近い所にある筋肉
- 深層筋を鍛えるのに力んだり、がむしゃらにやっては駄目で、力を抜いてやることが大事である
- 体を柔軟にするためには、深層筋を鍛えるのが早道である
- 深層筋を鍛えるということは、深層筋を固くすることではなく、柔軟にすることである
- 深層筋は微妙な「動き」の調整をし、複雑な運動ができる
- 深層筋は表層筋に比べて、疲労回復時間が短く、疲労の度合いも低い
- 深層筋は、脊髄反射でも知られる脊髄を収めた脊柱と深くつながっていて、手足の筋肉に比べると、意識的な操作は難しいが、力の量も持久力も格段に違う
- 表層筋は手足と脊柱を幅広く結ぶが、深層筋は1〜3の少ない関節を繋ぐ
等など
それでは、これをどのように合気道の技と体遣いに取り入れていけばいいかということになる。
初心者の頃は、誰でも力いっぱい稽古するものだ。まずは体をつくり、力をつけなければならないので必要な事である。しかし、ここで力がつくのは、いわゆる表層筋である。つまり、筋肉モリモリの体ができるのである。もちろん、これも必要であるが、深層筋は眠ったままである。表層筋が働きすぎて、深層筋が目覚めないのである。
その内に、表層筋のパワーだけでは、限界を感じるようになる。限界とは、相手の強いパワーをうまく捌けないということもあるが、自分の先にある力稽古の限界である。パワーに頼ったり、パワーを養成する稽古ではこの先無理だろうと感じて、表層筋を鍛えて得るパワーとは違うものを得たいと思うようになる。
そのひとつが表層筋の奥にある深層筋だろう。深層筋がどれなのか、どこにあるのか明確には分からないものだ。しかし、それを意識しようとしながら稽古をしていくと、少しずつこれが深層筋ではないかと意識できるようになる。表層筋をつかった技と、深層筋で掛けたときの技の効果が、全然違うからである。まったく異質の結果が出るのである。
それは、まず相手とくっつくことである。表層筋でやるとどうしても相手を弾き飛ばすことになるから、相手と結びにくいが、深層筋を遣うと、相手とくっつきひとつになるので、あとは争いも無く自由自在である。
次に、深層筋でやると、相手の深層筋が同調し、こちらの希望通りに動いてくれる。たとえ、相手が逆らおうと思っても、その相手の意志とは関係なく深層筋が反応してくれるのである。この時の受けを取っている相手の怪訝な顔つきがおもしろい。
三つ目は、表層筋を遣っていたときよりも大きな力が出るし、深層筋を遣った稽古をしていけば、ますます大きな力を得られるような気がすることである。
四つ目は、持久力が格段に増すし、疲労も少ない。これなら、これから年を取ってもできるはずだと思う。
五つ目は、速くも遅くも、大きくも小さくも、激しくもやさしくも動けて、さらに安定した無駄のない微妙な動きが自由自在にできる。
等などである。
表層筋に頼らないで、深層筋を遣って技を掛けるためには、次のことに注意すべきと考える:
- 力まないこと。力むと表層筋が硬くなり、深層筋が働かなくなる。
- 手足を体の中心である腰腹と脊柱に結ぶ。手足を体の中心と結ばないで、バラバラに遣うと、表層筋が働いて、パワー合気になってしまう。
- 末端の手足から動かさないで、腰腹や脊柱の中心から動かして遣う。
手足から遣うと、必ず表層筋が働いてしまうことになる。
- 手は始めから横に振らないで、縦に十字の円で遣う。これで深層筋が働き始める。はじめから横に振ると表層筋が働き、相手を弾いたり、ぶつかったりしてしまうので、強い力に抑えられてしまう。
- この縦の円を螺旋で遣う。螺旋で遣うと手、足、胴体のバラバラな骨が、深層筋によって繋がる。
- 技は、この繋がった「骨」で掛けるつもりでやるのがよいようだ。
- 軽いものを重く扱うようにする・・・・自分の腕の重さを感じられるようにする
- 息遣い。力が流れているところ(深層筋)を、流れに沿って息と意識を入れていく。
等である。
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