【第273回】 手と腰腹を繋ぐ

第272回の上達の秘訣で、「手と腰腹を繋げて遣う」を書いた。手と腰腹が結ばず、手から先に動かしては、技は掛からないというものであった。

しかし、手と腰腹を繋げるのは、そう容易なことではないようだ。容易でないということは、稽古を繰り返しやっていれば身につくものではないということである。つまり、この体の遣い方は、日常のものとは違うので、別次元での稽古において意識して身に着けなければならないからである。

手と腰腹が繋がっているかどうか、結んでいるかどうかを自分で知るのは、初めのうちは難しいはずであるが、慣れてくると容易にわかるし、さらに鍛える方法も分かってくる。

手と腰腹が結んでいるかどうかは、まず自分の手の重量を腰腹で感じるかどうかであろう。手にはけっこうな重さがあり、それを感じられれば、手と腰腹が繋がっているといえるだろう。このためには、もちろん武道の基本である、肩が貫(ぬ)けていなければならない。

また、最初は、手が自分の中心線上の腹前にくるようにした方が、腹と結びやすいだろう。

さらに、腰腹の力を手先まで流して、手先と腰腹を繋ぐ鍛錬としては、手を前へ伸ばし、手の平を目いっぱいに開き、閉じ、また開きを繰り返すものがある。この手の平の開閉は、手先でやるのではなく下腹の圧でやるのである。開く時は手の指が伸びきり、閉じる時は空気の隙間がないように握りこむ。指を伸ばし切ったときは、指はまっすぐになっていると同時に、肩から上腕、小手、手の甲が一直線にならなければならない。これが指が直線にならず歪んでいたり、腕が一直線にならないならば、まだ手と腰腹がうまく繋がっていないことになる。

下腹からの圧による手の開閉を稽古をしたり、第271回の「指関節」で書いたように、指が鋭角になる鍛錬をし、指や手の平、手の甲をまっすぐにする必要があるだろう。

手と腰腹が繋がったからといって、それで終わりではない。ここからが、さらなる稽古なのである。つまり、これからはいかに手と腰腹の結びを強くするかという稽古になる。繋がっただけでは、技として遣うには不十分だからである。

手と腰腹の結びをさらに強め、腰腹の力を手に集めて遣うように注意しながら、相対稽古で技を遣っていくのである。どの技でも注意しながらやっていけば、手に腰腹からの力が集まり、腰腹の力を手で遣えるようになるはずだ。

また。それを身につけやすい稽古をするのもよいだろう。それは諸手取り呼吸法である。諸手取り呼吸法は呼吸力養成法であり、この諸手取り呼吸法ができる程度にしか技は出来ないといわれるほど、非常に重要な鍛錬法である。いくらやってもこれでよいということはないはずだ。一人掛けでできるようになったら、二人掛け、三人掛けとやっていけばよい。