【第259回】 下 腹(したっぱら)

武道では、丹田が大事であるといわれる。丹田ができないと、技も術もつかえず、一人前の武道家ではないというのであろう。従って、丹田をしっかりつくらなければならないことになる。

しかし、丹田がどんなものなのか、どこにあるのかは、医師に訊いても分からないし医学書にもないので、場所も形も具体的にはわからない。丹田は具体的な形や明確な場所にあるわけではなく、先人達の長い歴史からなる医術や武術などを通して、会得した知恵から出来たものと言えよう。

先人たちの残してくれたことと、自分の体が感じることから、「丹田は、臍(へそ)から下の下腹に空圧を感じるところ」ということになるようだ。

確かに、合気道でも他の武道でも達人や上手の下腹は、空圧で張っている。この腹の張り方は、メタボの人の腹の張りとは違う。達人は下腹、メタボは上腹が張り、臍も達人は上を向き、メタボの臍は下を向くと言われる。

合気道でも下手と上手は、この腹の張り方でも区別がつくだろう。初心者の帯は、腹が張っていないので腹で止まらず、稽古するに従ってずれ上がってきてしまう。上手になってくると、帯は臍の下で、張った腹にしっかり張り付いてずれ上がらないようになってくる。

稽古で、技を掛けたり、受けで転がって起き上がったり、座って立ち上がったりしていくうちに、腹の筋肉ができて来る。同時に、腹圧も増してくるので、腹ができてくる。この次元までは、稽古をすれば、誰でもやっただけ腹が出来る。だから、稽古を続ければよいわけだが、それで下腹が真にできるということではないようだ。ここから、更に下腹をつくっていかなければならないのである。

下腹をつくっていくには工夫がいる。下腹をつくるポイントの一つは足である。足と下腹は途切れず、連動して遣われなければならない。足が地を踏めば、その踏んだ足の力が下腹に溜まり、その溜まった力をまた足に返していくのである。そうすると、下腹は空気ポンプのように働く。従って、歩を進めれば、下腹の空気ポンプが膨らんだり萎んだりするので、歩けば歩くほど腹ができて来ることになる。

下腹をつくるポイントの二つ目は、呼吸である。呼吸は腹式呼吸であるが、臍から下の下腹で呼吸することである。吸うのも吐くのも、下腹でするのである。呼吸して動くのは臍の下の下腹で、臍上はほとんど動かない。だから帯もずれ上がらないことになる。

この二つのポイントは、四股を踏むとわかりやすい。立ったら下腹に圧をかけ、そのまま一方の足に重心を移動、下腹から息をもらしながら下に沈む。沈んだところから、足底から息を吸って下腹を空気で満たしていくと、他方の足が自然に上がって来る。このとき、下腹ではなく臍の上で息をするとふらついしまうことになる。

技は、足、そして手と連動するこの空気ポンプの下腹で、掛けることになる。この空気ポンプは、ショックを吸収するショックアブソルバーの機能も果たすし、圧縮した空気を爆発させる大きな力を出す空気砲の働きもする。だから、下腹に空気圧を満たした丹田は、合気道だけではなく、武道では重要であるといわれるのだろう。