【第251回】 股関節と膝痛

合気道を稽古している人の中で、膝を痛める人をけっこう見かける。他の武道にはめずらしい坐技などがあるから仕方ないと思っていたが、どうもそれだけではないようなので、これまでにも原因と思われることを書いてきた。

つまり、膝を痛める原因としては、つま先に体重をかけて歩いたり技をかけたりすること、体の裏(胸側、体の前面)を遣うことなどがあげられるが、それで膝に負担がかかるのである。

しかし、この他に股関節が硬くて十分機能しなくなることが、もうひとつの原因であるようだ。

年を取ってきて何もしなければ、股関節はサビついて硬くなってくる。最悪の場合には、股関節が固まって遣えなくなり、足だけがやっと前へ出ることになり、機械仕掛け人形のようにちょこちょことしか歩けなくなってしまう。

そこまで極端ではないが、股関節が硬くなれば、それ相応に機械仕掛け人形の歩き方、体の遣い方の方向へ向かうことになる。日常生活で通常に歩いている分には、少しずつ向かうだけであるが、股関節の硬い状態で稽古をすれば、膝を痛めてしまうことになるだろう。

合気道で歩を進めるのは、撞木(しゅもく)足である。足を一歩進めて踵で地に着いたとき、お腹は進めた足先の方向を向くが、着地と同時にお腹は次の歩の進む方向に向いている。そのとき、方向転換するお腹の角度は、撞木の足の角度と同じはずである。

次の歩を進めながら方向転換するとき、股関節が柔らかければ、股関節が十字にスライドして、お腹が前に進めた足の上にくるように重心が移動するので、膝に負担をかけることはない。しかし、股関節が硬くてお腹がスライドしないと、お腹と足先の方向は同じになろうとするので、腹の向きを変えると足全体がつっぱり、ねじられることになり、膝もねじられるので、膝にもろに負担がかかってしまうことになるのである。

ましてや稽古で技をかけるときには、通常で歩くよりも大きく早く動くので、膝にかかる負担は相当なものになり、膝を痛めるのも不思議ではない。

股関節を柔軟にし、お腹が左右の足の上に十字でスムーズにスライドするように撞木で歩を進めるよう、体に覚えさせなければならない。踵遣い、体の表を遣うことに合わせて、股関節を柔軟に遣っていけば、膝への負担は少なくなるはずだから、膝を痛めることもなくなるか、少なくなるはずである。

武道を稽古して体を壊してしまうのは、本末転倒である。注意していきたいものである。