【第194回】 「生産び」ストレッチ運動

開祖がおられた頃の本部道場では、西洋式の準備体操はやっていなかったと思う。その代わり、準備運動として、船漕ぎ運動、膝行や基本準備動作と言われる一教運動、転換運動、入り身転換運動、手首の関節鍛練法、それに呼吸法などをやっていた。

最近では基本準備動作はあまり行われなくなってきているようである。かつての基本準備動作は合気の体をつくり、合気の動き(業)を身につける為の土台だったと思うが、今の準備体操は怪我をしないように体をほぐす程度のものといえよう。

しかしながら、今の身体をほぐす準備体操でも、本当にやりたいと思っていることは「ストレッチ」なのではないかと考える。体の各部位を伸ばすことである。
準備体操をストレッチであるとすれば、徹底的にストレッチを目指した方がよいだろう。どうせやるなら、体の部位が最大限に伸びるようにするのがいい。
そのためには、先ず、準備体操はストレッチのためにやるものだと体に言い聞かせなくてはならない。そして、如何なる体操の動作でもその部位の筋肉が少しでも沢山伸びるようにするのである。

しかし、体を伸ばすのはそう容易ではない。伸ばすには伸びるようにやらなければならない。ただやればいいということではない。特に息遣いを注意しなければならない。間違った息遣いをすれば、逆に筋肉が固まるし、壊してしまうことになりかねない。

例えば、開脚でのストレッチをする場合、大概の人は息を吐きながら体を倒し、内股や股関節をストレッチするものだ。この息遣いが自然でやりやすいからであろう。しかし、基本的に呼気は体を硬くするものだから、初めの内は息を入れながら体を倒す吸気でやる方のがいい。吸気の方が伸びるはずである。だが、上には上があるもので、この吸気で息を入れ切ったところで、また息を吐き出すと、更に伸び、伸びきるのである。
つまり、ストレッチでは

  1. 息を出しながら抵抗があるところまで体を倒す(呼気)
  2. 抵抗があるところから限界まで息を入れる(吸気)
  3. 限界のところで息を吐き出す(呼気)
  4. 息を入れながら体を起こす(吸気)、そして@の息を出して・・・
という息づかいをするのである。これが最もストレッチに効果的な息遣いであるだけでなく、武道の息遣いとして技にも活用できるのである。特に、技を掛けるときはこの息遣いが必要である。

この息遣いを「生産び」(いくむすび)という。これは武道だけではなく、昔から日本に伝わっている教えであるようだ。再三書いているが、開祖は、「昔の行者などは生産びといいました。イと吐いて、クと吸って、ムと吐いて、スと吸う。それで全部、自分の仕事をするのです。」と言われているのである。(合気道の思想と技 第191回 「生産び」

この「生産び」で、西洋流の準備体操も厳しい武道の基本準備運動にしてしまい、自分の仕事でもある「わざ」(技と業)に結びつけていかなければならないと考える。