【第18回】 暑さを楽しみ、暑さを鍛える

夏は暑いし、蒸す。じっとしていても汗がでてくる時に、冷房装置のない道場で稽古するのは大変である。道衣がびっしょりになるぐらい汗をかくし、体力も消耗し、呼吸も苦しくなる。稽古の途中で休んだり、水を飲みにいったりする者も出る。他の季節ではあまり見かけない。春夏秋冬の内、夏は稽古には一番大変な季節であろう。
しかし、稽古が終わって、シャワーを浴びた後の爽快感と充実感は、暑い夏の稽古の後が最高であろう。ビールの味もこの季節が最高である。

最高の喜びは、その対極の苦しみに比例するものであろう。つまり、楽な稽古は小さな喜びしか得られないということでもある。
もし暑い夏がなければ、稽古も単調になるし、稽古の喜びも半減することだろう。暑い夏に感謝し、苦しみ、そして楽しむのがいい。

夏が暑いのは自然の摂理である。合気道が宇宙、自然と一体化する道であるとすれば、夏の暑さとも一体化できなければならないわけである。

都会の日常生活で暑い夏を自然に受け入れて楽しむのは、もはや難しい。せいぜい海水浴に行くか、山に行くしかないだろう。都会の住居はエアコンを使用することを前提にして建てられているので、自然の風は入らない。どんなに暑い日でも、夜になれば外の空気や風は、長袖を着なければならないほど冷たいのであるが、家の中は夜でも蒸すので冷房をかけなければならないような状況になっている。その挙句、冷房病で体調を崩す人が増える。自然の摂理に反して楽なことをすれば、その対極の苦しみがでてくるわけである。

稽古でも、夏は暑さを楽しむのがいい。冬になればこの暑さが恋しくなる。冬にこの暑さはない。夏の今しかこの暑さがない。楽しむのは、今しかない。稽古で、暑い暑いと言わず、夏の暑さを静かに楽しもう。暑い夏の稽古を楽しめれば、来年までの体力は保障されたようなものだ。