【第176回】 足は歩くように

合気道の相対稽古で技を掛けるとき、初心者の間は、足を踏ん張ってやってしまう。「やるぞ」と構えてやるわけだが、初心者の内は力も技もないので、それしか出来ないだろうし、またそうすることによって力がつくことになるので仕方がないだろう。

歩の進め方の理想は晩年の開祖のように、通常歩くような歩の進め方であるが、我々凡人が唯歩いただけで技を遣うことなど、そう簡単には出来る訳がない。出来るようになるためには、やるべきことをひとつづつやって、開祖に一歩一歩近ずく努力をするしかないだろう。

足を歩くように遣うということは、先ず、歩を止めないことである。技を掛けようとするとき、力を出そうとして歩を止め、構えてしまわないことである。足を左右交互に規則正しく遣うことである。足が止まってしまうと、動くのは手だけになるので、どうしても手を振り回してしまうことになる。

足が止まってしまうために、技が上手くいかない典型的なものに「入り身投げ」がある。最後に相手を投げるとき、足が居ついてしまい、手で投げようとするので、相手に頑張られてしまうのである。手を動かす代わりに、もう一歩足を進めれば、相手は倒れやすくなるはずるである。「入り身投げ」の他にも、「回転投げ」「後両手取り」なども、足が止まったら出来ない典型的なものであろう。

次に、呼吸(いき)に合わせて歩くことである。ハーハーゼーゼーして動いたのでは、動きと呼吸が合っていないことになるので、呼吸は常に普段の歩くように静かでなければならない。

またこれから技を掛けるぞと意気込まず、足や体を突っ張らないで、通常歩くように足や体を遣わなければならない。

足を歩くように遣うということには、これ以外にいろいろあるだろう。例えば、ナンバ(常足)で動き、両足に重心が同時に掛からないことである。両足に重心が掛かると、重心が両足の間にも掛かり、3点に重心が落ちることになる。そうすると、動きが止まって、体が居ついてしまい、力も出ず、技が遣えないことになる。相撲でも、足が揃うといって嫌われるものだ。それに、踵から着地する、足底は床と紙一重の高さで進める、などがある。

もちろん、技であるのだから、通常の歩法のままでは技にならないので、進む方向の角度、拍子、呼吸遣い等を少し変える必要はあるだろう。しかし、開祖の歩法のように、通常の歩法に少しでも近づくよう、稽古に励まなければならない。