【第170回】 手と腰腹の連結

手は人体の中で最も多様に、そして容易に動く部位であろう。人体の中で360°回転出来るのは、手だけであろうし、またロボット流に言えば、7軸の関節を有している。手はこの360°回転できる機能と7軸関節の機能により、複雑な動きができるわけである。

人は手の高機能のおかげで、豊かな生活を送り、科学を発達させ、芸術芸能を創造発展させ、武術・武道の技を創り出し、洗練させてきた。

という訳で、人類はチパンジーと枝分かれした500〜600万年前以来、長年にわたって手をつかうことによって、より豊かな生活を目指してきたのだが、手は万能であるとか、手は自分の思い通り、所謂「自分の手足の如く」につかえるものと思い込むようになってしまった。

普段の生活では、自分の手は自分の思うままに使っていると思っているだろうし、自分の手の働きにはほとんど不便を感じていないはずである。手の機能に不便を感じるのは、怪我をしたとか、高齢になったときなどであろう。

しかし、この手万能の日常生活の考えを武道や道場まで持ち込んでしまうことが、武道上達の妨げの一つになることになる。武道では、手は万能でないし、主役でもない。もちろん手を上手く遣わなければならないが、その遣い方は日常での遣い方とは大いに違うのである。これに気がつかなかったり、切り替えができないと、思うように技が遣えないことになる。

合気道では、技の修練を通して道を進む。技は手で掛けなければならないが、手で掛けては駄目なのである。矛盾であるが、そうなのである。つまり、技は手を主体的に遣っては効かない、ということである。主体的に遣うなとは、まずはじめに手を動かさないこと。次に手から力を出さないことである。

初めに動かすところ、力の元とは、手先の対極にある腰と腹である。腰腹が支点となり、腰腹の力を手先に伝え、腰腹で手の操作をしなければならない。

腰腹で手を操作するためには、腰腹と手先がしっかりと連結していなければならない。手が腰腹としっかり結んでいなければ、手先の力しか遣うことができないので、技は効かないことになる。手先が腰腹と連結していなければ、手を振り回すことになってしまう。手先と腰腹がしっかり結んでいれば、相手が手を握っても、打ってきても腰腹で受けることになるので、相手はこちらの腰腹を感じるはずである。

技を掛けるときも、手で掛けては効かない。関節技でも投げ技でも、腰腹の力を遣わなければならない。二教裏(小手回し)が上手くいかないのも、肘固めが上手く決まらないのも、腹腰と連結していない手を主体的に遣ってしまうからであると言える。

これらの技が上手く掛かったときは、手はほとんど動いておらず、腹腰中心で体が動いて、体の力が手や肘に掛かっているのである。手と腰腹の連結で技を掛けなければ技は効かないが、手と腰腹をしっかり結ぶことはすぐに出来ることではない。技の稽古を通して少しでも連結するようにしていくほかないだろう。地道に道を進むほかない。