【第17回】 体の各部を手にする

合気道の稽古の基本は、相手に手を取らせたところから技をかける稽古をするのが一般的である。私が入門した当時はまだ、相手にしっかり握られた手をはずす、所謂、手ほどきの稽古もあった。しっかり掴まれた手をほどくのは意外と難しいものだ。

当時も手を取らせて技をかける稽古は多かったが、手以外の場所を取られての稽古も今より多く、バラエティーに富んでいた。手首以外では、肘の下と上、片肩と両肩、胸端、胸中、首、髪の毛などがあり、さらに前や後ろからの胴締め、前や後ろからの首締めなどもあった。

手だけでなく、体の各部分をつかませて、そこから技をかける稽古法は、体を鍛える上で非常に意味がある。

だいたい人は力を使う仕事には手を使うのが一般的であり、長年の習慣でもあるので、手以外の部分を使って仕事をするのは難しいものだ。それは合気道の稽古でもいえる。例えば、肩取りの一教や二教をするにも、せっかく肩を持ってくれる相手の手を肩からはずして、手を使って通常の一教や二教の動きにしてしまう。これでは、肩の鍛錬にもならず、肩取りの意味がなくなってしまう。

頭の働きは手に表れるもので、頭と手は直結しているといわれる。また、手を鍛えると、頭からの指令がなくとも、手独自で機能するための脳ができるともいう。しかし、人は手の働きや力を過信する傾向がある。胸や肩の力よりも手の方が強い力が出るものと思い込んで、相手が持っている肩や胸を使わず手でやろうとする。

力は体の中心に近くなれば近くなるほど出るものであり、その意味で末端にある手の力は弱いのである。それ故、手から力を出すために大腰筋や菱形筋などの深層筋肉からの力を誘導しなければならないわけである。それに引き換え、肩や胸は直接、即座に力を発することができる。体重が60kgあれば、肩や胸ではこの体重の大半をもろに使えるが、手では60kgどころか半分の30kg出すのも大変である。

相手に掴まれた部分を接点とし、手のように機能するように鍛錬し、その部分のカスを取り除き、そしてそこに新しい脳をつくるのが肝要であろう。