【第162回】 膝

年を取ってくれば体にガタが出てくる。ガタがくるとは、機能が低下することだが、ひどい場合は、痛みを伴ったり、機能停止してしまう。ガタが来ないように願っていても、先方さんの方から来てしまうものだ。一番困るガタは頭であろうが、これは合気道でとやかく言うことではないだろうから無視するとして、次に困るガタを考えると、それは下半身であろう。下半身が機能しなければ、自分で歩いて思うように移動できず、住む世界は制限されてしまうし、武道家として、又人としての機能や楽しみが大きく減退するからである。

下半身で最も早くガタがくるのは膝であろう。ガタがくるのは老化による自然的なものと、使い方を誤った過失的というべきものがあるといえる。合気道の道場でも、最近特に膝を痛める人が増えているようだ。その中の多くは、自然的な老化が原因だろうが、人為的過失によるのも多いように見受ける。何故ならば稽古で、@自分の体の裏(前面)を遣っている、A膝をつま先より先に出しているBつま先が外側を向いている、等によって膝に過剰な負担をかける、等を見かけるからである。人為的過失というのは、わざわざ為した事によって災いを招いてしまったことなので、結果的にはやらなければよかったということになる。

年を取ってくると内転筋が弱くなるので、ガニ股になり、またつま先がどうしても外を向くようになってくる。ガニ股でつま先が外側を向いていると、着物を着て歩くと裾が乱れ、すぐ着崩れしてしまうので、きれいに歩くこともできなくなる。昔の人はそうならないように、内転筋を衰えさせないために両足を紐で縛って寝たのかも知れない。

膝が痛くなるのは、内転筋だけでなく、膝の周りの筋肉の衰えがあるだろう。従って、それを予防するためには膝の周りの筋肉を鍛えることである。寝た姿勢で、あるいは椅子に坐ったまま膝を少し高めに上げ、足を延ばしてゆっくり膝から折り、また真っすぐに伸ばす膝の屈伸運動を左右各50回ぐらいやるのがよい。寝る時や起きたとき、または仕事で時間が出来たときなどにやるのがよいが、出来れば毎日、規則的にやるとよい。

また、膝に害になることを避けなければならない。膝に悪いのは、胡坐(あぐら)を長時間かいたり、椅子に掛けたときに足を組むことである。胡座を長時間かいたり、足を長時間組んでいると、歩いたときなど分かるが、膝に力が入らなかったり、痛くなっているものである。胡座をかいたり足を組んでしまったら、歩いて足と膝のバランスを取り戻すことである。その場合は、膝等下半身と体のバランスが取れるまで、普段より少し長く歩くのがいい。もちろん、道場での稽古はもっと効果的である。受身を取れば、体のバランスがさらによくなる。

サポーター(膝当て)に頼るより、毎日、膝に筋肉をつける運動で筋肉をつけ、内転筋を鍛えて、足を極力組まないように注意し、膝にガタが来ないように膝を大事に遣っていきたいものである。