【第154回】 腕が折れないために

合気道の技はほとんど手を遣ってかけるものなので、相手との接点となる手に力が集中しなければならない。自分の体の力がそこにすべてかかれば、相当な力が出て、相手も容易に耐えることはできないはずである。例えば、60kgの体重のある人が、その体重を相手の接点にかけたとした場合、60kgすべてがかかれば相手は耐えられないだろう。しかし、通常はその数分の1の力しかかからないものである。その最大の原因は、腕が折れてしまうことにあると言える。

腕が折れないようにするには、腕が何故折れるのか、そしてそれをどうすれば折れないようになるのかを研究しなければならない。まず腕が折れる最大の理由は簡単である。腕が弱いからである。一教と諸手取呼吸法を繰り返し稽古し、折れない強い腕をつくることである。

次に、手と腕の遣い方である。人間の手や腕の筋肉は直線的に骨にくっついていない。螺旋についているはずである。また地球でも月でも、また植物などの自然の創造物は、すべて螺旋で動いたり、生きていると言える。従って、手や腕を上下、左右で動かす場合、螺旋で遣わなければならないはずである。螺旋で反転々々しながら遣えば、体の力が手先まで伝わるだけでなく、相手の接点とくっついて相手を引き出し、相手を自由に処理しやすくなる。手・腕を螺旋に遣う稽古は、合気道の全ての技と呼吸法でできるので、手・腕が螺旋で動いているかどうかを注意して稽古すればよいだけである。

三つ目は、技をかけるにあたって、手先・小手などの体の末端でやらないことである。どんな技でも小手先でやってしまえば、手は折れてしまう。例えば、二教や三教の表技である。小手先だけを遣ってやるから、自分で詰まってしまうため、手は折れてしまい、力が切れ、隙だらけになるのである。二教や三教の表技で手(腕も含む)を折れないようにするには、手先・小手先を先に動かさずに、まず体を外側の腕が伸びきるまで十分返し、体を反転しながら相手の手首をからみ取るようにすれば折れ難い。体は末端から遣うのではなく、中心から動かして遣わなければならない。

これは合気道の全ての技に共通することである。否、この中心から動かすというのは、合気道だけではなくゴルフや野球などのスポーツ、日本舞踊、太極拳、西洋バレエにも言えることである。どの分野でも、下手は末端から先に動かしているものである。

四つ目は、体をバラバラに遣うことで原因である。体(体幹)と手と足が、調和して動いてないのである。多く見受けるのは、手と足の動きがバラバラか、手だけ動いて足が居ついていることである。そうすると、手だけしか遣えないことになるから、力もたいして出ないし、力負けして腕が折れてしまったり、自分の体や足が邪魔して手が折れてしまうのである。体でも特に腰と肩が柔軟に動かないと、手が調和して動けない。典型的なのは、正面打ち入身投げであろう。肩と腰が柔軟に動かないから、相手との間合いがつまってしまい、それをカバーするために腕を折ることになるのである。

もちろん腕が折れる原因はまだまだ沢山あるだろうが、長くなりすぎるので、今回はここまでとする。

腕が折れては技がきまらないだけでなく、合気の道を先に進めない。相手を投げることだけ考えずに、自分の腕が折れていないかどうかを注意しながら、古をしていきたいものである。