【第143回】 肩甲骨

人は40、50年生きてくると、いわゆる40肩とか50肩といって、肩に痛みを感じ、肩が思うように動かせなくなったりする。長年、肩を酷使した結果であり、遣い方を間違えて、理に合わない遣い方をしたからであろう。合気道の道場で、木刀を素振りしているのをよく見かけるが、大体は肩を痛めるような振り方をしているといえる。極端にいうと、肩を痛めるためにやっているようにも見えるのである。

木刀の素振りで肩を痛めるのは、肩で振るからである。肩で振るというのは、上腕(二の腕)と肩甲骨の接点のところに力を込めて振るということである。通常の生活でも、腕をこの上腕(二の腕)と肩甲骨のところを接点にして遣っているので、40、50年遣うと疲労してしまい、40肩や50肩になるのだろう。その上、木刀の素振りで更に負担を掛けるのだから、肩はたまったものではないだろう。

前にも書いたが、手腕は各部位(手、腕、上腕、肩甲骨)で十字(直角)に働くように出来ている。手は横に振れ、腕は上下、上腕は左右、そして肩甲骨は上下である。しかしこれを技として遣う場合にはこの部位の動きと十字(直角)に遣わなければ上手くいき難い。それが分かり易いのは木刀の素振りであろう。

手や腕もそうだが、中でも肩甲骨の遣い方を注意しなければならない。肩甲骨は本来、上下に動き易くできている。肩を上げ下げすることは日常でもよくやるだろう。しかしここを横に遣うことはほとんどないといってよい。

剣を遣うときは、真上まで上腕を上げたら、胸を開くようにして脇を空け、肩甲骨を横に伸ばすのである。肩甲骨が胸鎖関節から横に開くことによって、それまで肩に引っかかってとまっていた肩の楔(くさび)がはずれ、広背筋や菱形筋から腰腹と結ぶようになる。これを肩が貫けるというのだろう。この肩甲骨を開いて肩を貫くことによって、肩に負担を掛けることなく、さらに腰腹の大きなパワーを剣に伝えることができることになる。

肩甲骨を横に開く稽古は、上述のような木刀の素振りがよいが、木刀などの得物を遣わない素手(徒手)の素振りもよい。正面打ちを左右繰り返して稽古するのである。手を真上まであげたら、脇を開けて肩を貫き、肩甲骨を横に開き、さらに腕を上昇させて切下すのである。また、横面打ちでも肩甲骨を横に開く稽古はできる。

この他にも、船漕ぎ運動(天之鳥舟)、特に、前に突き出した両腕を頭の上に上げて、脇を開き広背筋や菱形筋を遣って肩甲骨を開く動作のものもよい。