【第131回】 手さばき

合気道の相対稽古でも、演武会などでも、無意識に上手と下手を、何故そうなのかも考えずに判断しているものだ。しかしながら、上手とか下手と思うには、その判断基準があるはずである。その基準にはいろいろあるだろうが、最近、特に気になってきたものがあるので、それを取上げ、その解決のためにどうすればいいか提案してみたいと思う。

それは「手さばき」である。「手さばき」には、「手さばき」「足さばき」というように、「手の遣い方」という一般的な意味と「手を無闇に遣ってしまう」というネガティブな意味があるのではないだろうか。ここでの「手さばき」は後者のネガティブな意味である。

初心者のうちは「手さばき」(手で技を掛ける)でやるのは仕方がないだろうし、それしか出来ないだろう。しかし、演武会で演武をするような高段者は注意しなければならないポイントである。

「手さばき」というのは、手が腹・腰と結ばず、手を腹・腰とバラバラに遣うことである。手を遣っても、腹・腰が動かずに手だけが動いているのである。

手だけで何故悪いのかということであるが、手を遣った場合、手の力などたかが知れているので、力が出ず技が掛かり難いわけである。相手がその手を掴んだり、押さえているのだから、相手の腕の力が強ければ、技は掛からないことになる。「手さばき」では、相手がよほど力がないか、または素直に受けをとってくれないかぎり、技はかからないと考えた方がよい。

「手さばき」にならないためには、腹・腰、丹田などと手先が結ばれなければならない。そして、腹・腰、丹田からの力(気)が手先まで通り抜けることである。手や腕の部分的な力ではなく、体全体の力を遣うのである。

「手さばき」をすると、相手が強い場合には力んでしまうが、力みは厳禁である。力んだら、力んだ部分で固まってしまい、力は途切れてしまう。筋肉と関節はリラックスしなければならない。大先生が言われる、「天之浮橋に立たなければならない」のである。そうすると腕は重くなり、腹とズシンと結ぶはずである。そして抑えられた部分を動かさずに、対極にある腹・腰を遣えばいいのである。腹は手と結んでいるので、腹を動かせば手が動くはずである。手を押さえている相手の腕がどれほど太くても、こちらの腹や腰(体幹)より太くはないはずであるから、理論上は技が掛かるはずである。掛からなければそれを信じて練習するだけである。

技を掛ける上での鉄則の一つは、相手と接している部位を最初に動かさないということである。まずは、その対極の腹・腰を動かさなければならない。

腹を遣って手を動かす稽古は、合気道のすべての技でできるだろうし、やらなければならないが、その理合がわかり、それを体に覚えさせる鍛錬がやりやすいものに、次のようなものがある:

〇 入身転換法(写真)
〇 呼吸法(片手取り呼吸法、座技呼吸法)
〇 片手取り四方投げ(立ち技、半坐半立ち)
〇 回転投げ
〇 呼吸投げ

手と腹を結ぶ上で更に大事なことは、手を常に自分の体の中心線上に置き、両手を遣う場合は両手の真ん中が体の中心線上にくるようにすることである。また腕も天之浮橋に立つ状態で遣わなければならないわけだから、腕遣いは相手と十字になるようにしなければならないことになる。腕が天之浮橋に立つようにする稽古は、以前書いたように、風呂やプールの中での稽古がよい。これが出来たら空気中でもできるようになるようだ。

手が腹・腰と結んで、腹・腰を動かすことによって、手が働くようになるように、上記の技や呼吸法で繰り返し稽古をするのがよいだろう。