【第127回】 受身を最後まできっちりと

合気道には主に投げ技と押さえ技がある。その内の押さえ技の典型的なものは一教、二教、三教、四教、五教であろう。勿論、投げ技でも大概のものは押さえることが出来るし、出来なければならない。小手返しは云うに及ばず、回転投げ、四方投げ等も押さえて決めることができなければならない。

合気道の稽古の目的の一つは、体のカスを取っていくことである。カスが溜まっていると、筋肉や関節が十分機能しないので、体がスムースに働かないだけでなく、血液や気が滞ってしまい、痛めたり、病気になったり、老化を早めたりする。体のカスを取るためには、その部分を伸ばし、使ってやるのがいい。

合気道の稽古を普通にやっていれば、冬でも汗をかくのだから、結構体を動かしているはずで、知らず知らずの内に体のカスが取れているわけだ。しかし、人は動かし易いところは動かすものだが、動かし難い箇所や動かすべき部位は使いたがらないものであり、無意識の内に避けるようである。本来なら、カスが溜まっている箇所を動かしてカスを取っていかなければならないのに、そこを使おうとしないのである。

また自分でそこのカスを取るべく努力しても、自分でやるには限界がある。例えば、手首を柔軟にするために、自分で自分の手首を捻る練習をしても、自分一人で悲鳴をあげるほど力一杯できるものではない。恐らく自分の手首を自分で壊すことは絶対にないだろうし、出来ないだろう。

自分でカスを取ることには限界があるので、更にカスを取るには、他人に手伝ってもらわなければならない。合気道は相対稽古をするので、それには最適である。取りの相手が伸ばしてくれるからである。しかし、本当にカスを取るには、ただドタンバタンの稽古をするのではなく、次の事に注意しながら稽古する必要がある。

先ず、受けも取りも、受け手側の体のカスを取るために、その部分を極限まで伸ばすという意識を持って稽古することである。一教の押さえでも、受け手の腕と脇腹の角度は90度以上の鈍角にし、取り手の膝で相手の横腹を押さえ、相手の腕をしっかり抑えながら手先の方に、足の重心移動でその腕を螺旋で伸ばしてやるのである。

二教も三教も、受け手の腕を胸につける最後の押さえでは、相手の腕を押し付けずに伸ばすようにするのが重要である。このとき伸ばす側の取り手は、息をゆっくり吐きながら、そしてその息に合わせながら受け手の腕を限界まで伸ばしてやるが、受け手の方は、自分の腕を自分で伸ばすつもりで、息を詰めずに、息を吸いながら伸ばしていくのである。

限界までいったら、それ以上動かさずにじっとしている。受け手は息を吸っていた息を吐いてまた吸うのだが、そのときに肩の筋肉がちょっと緩むはずなので、それに合わせてまた一寸伸ばしてやるのである。一度で伸びきらない場合は、これを繰り返すといい。つまり、相手に自分で伸ばすのを助けて貰う訳である。どちらか一方でもその理が分からずにやってしまうと、カスを取る稽古にならずに、逆に固まってしまい、ますますカスを溜めることになる。

基本の技の受身をきっちり稽古していけば、体のカスは相当取り去ることができる。一教の受け(写真)を最後まできっちりやれば、腕だけではなく肩から横腹そして腰まで伸びるはずなので、そこのカスが取れるのである。逆に考えると、カスを取り去るためには基本の押さえ技の受身をしっかりやるしかないのではないだろうか。