【第125回】 息を吸う

合気道の稽古でもそうだが、人は息を吐くことは自然に出来るし、意識しても出来るようだ。しかし、息を吸うことは意外と難しい。特に動作に合わせてのこの息遣いは難しい。だがこれは意外と大事である。

最近、「睡眠時無呼吸症」という病気が増えているという。日本には推定で500万人〜1,000万人いるらしい。(NHK『石器が生んだ病』)無呼吸症というのは、無呼吸状態が10秒間続き、それが1時間5回以上あることである。この症状は、息は吐けるが、息を吸えないという窒息状態である。この症状が何故起るかというと、舌が下がって気道を塞ぐからである。肥満の人や顎の小さい人に多いと言う。

「睡眠時無呼吸症」になるのは人だけで、動物はならないという。何故人間だけにこのような病気が起こるかというと、人間の長い歴史から来ていると言う。人類は、600万年前にアフリカで誕生したといわれる。それ以後いろいろな人種に分かれていくが、330万年頃、アウストロビテクス・アファレンスが誕生する。それまでは人類は硬いものを噛むため、頑丈で大きな顎が必要であったが、この頃から、それまで顎を使って砕いていたことを、石器を使うようになる。人類はこのような進化とともに顎が小さくなり、舌が丸くなっていった。そして、「睡眠時無呼吸症」が起こるようになったといわれている。

息を吸うことが上手くいけば、「睡眠時無呼吸症」は起こらないわけであるから、息を吸うことを研究すればいいだろう。合気道の稽古での息遣いでも、吐くことも大事であるが、息を吸うことも注意して稽古をすべきである。例えば、体操で体を伸ばす場合、息を吸わなければ体は伸びず、柔らかくならないということを実感し、自得しなければならない。体操など自分一人の時に息が自由に使えなければ、相手と組んだらできるわけがない。実際、初心者は技をかけるとき、息を吸わずに吐いてしまうので、技が効かないのである。

息を吸うということは、体に息を入れることである。沢山入れるためには、二つある横隔膜、上の呼吸横隔膜を上げ、下の骨盤横隔膜を下げることである。初心者は口から息を入れればいいと考えるが、この両横隔膜を上下に動かせば息が入ってくるのである。所謂、腹で呼吸するということである。これは合気道の原則にも合っている。要するに、末端(口)を使わずに、中心(腹)を使うのである。

体を柔軟にし、相手と一緒になり、宇宙の響きを腹で感じるには、息を吐いていては難しい。息を吸ったときには、感じ易いものである。合気道の体をつくり、「睡眠時無呼吸症」にならないためにも、息を吸うことを研究して、実践するのがいいだろう。