【第122回】 中心から末端へ

合気道で技を掛けるとき、下手な者は初めから体の末端部の手先を動かしてしまう。初めに末端の手を動かそうとするから、力が出ないだけでなく、相手の力とぶつかってしまって、技が掛からないことになる。相手が力一杯持っているところに力をぶつけることになるのだから、自分の力が止められて、技が掛からなくなるのである。

大きな力を出すためには、体幹の中心、丹田から出る力を使わなくてはならない。その体の中心にある丹田からの力を末端にある手に伝えるのである。

大きな力が出せて、それが効率的に使えるためには、力を体の中心から末端に伝えなければならないが、これは合気道に限ったことではなく、野球のピッチャーや外野手の投球、バットのスイング、ゴルフのスイング、ハンマー投げ、水泳の手のかき、剣の切下し等々も、上手な者は力を体の中心から末端に流れるように遣っている。下手な者は、ボールを投げるにも、先ず末端にある手先で投げ、ゴルフのスイングでも先ず手先で打ち、水泳でも手先で水をかいているし、剣も手先を遣ってやっている。武道やスポーツだけでなく、お能や仕舞、茶道でのお点前、日本舞踏などでも、すべて手先の動きは体の中心から出ている。この中心からの力が末端に届くまでに若干の時差ができるが、これが強さと美しさをもたらしているとも言えるだろう。

技を上手く掛けるためには、先ず体の中心、丹田をしっかりと鍛錬し、そのしっかりした丹田と手先をぐらぐらしないようにしっかり結ぶ体をつくることである。手先と腹(丹田)が結べたら、今度は腹から力を出し、それを肩を貫いて、手先に伝え、技をかけるようにする。

このような体ができたか、腹からの力が手に伝わったかどうかは、技を掛けてみるとよく分かる。典型的な技は「諸手取り交差取り二教」であろう。この技は手先を先に動かして使うと、効かない技である。逆に言うと、この技を繰り返し稽古して、腹から動く力の遣い方と体をつくるのがよいだろう。

この他の技としては、四方投げ、回転投げなどでも、このための体をつくることができるだろう。これらの技ができるようになれば、他のほとんどの技で、体の中心から末端に力が流れるような体ができるはずである。特に、呼吸法は手先から動かしたのでは、手が上がらないので、片手取りでも諸手取りでも、中心から動かす体をつくる稽古には最適である。