【第119回】 脚

合気道の稽古での脚遣いは難しい。多くの人が脚遣いの難しさに気付かないほど、難しいものである。手の遣い方なら難しいと気付いて、悩みながらもなんとか覚えていくが、脚遣いで悩むひとはあまりいない。脚は気にしなくとも動いてくれるものと考えているようだ。確かに誰でも道を歩くのに、脚をどう遣えばいいのか考えず、無意識で歩を進めている。  

しかし、合気道の稽古においては、誰もが脚遣いを一度考えてみる必要があるだろう。さもなければ「わざ」が上手くいかないだけでなく、脚を痛めることになりかねないからである。実際、多くの稽古人が膝を痛め、サポーターをして稽古をしている。脚遣いで何かが間違っているからである。

稽古の前の準備運動を見ても、多くの人が脚の筋肉の使い方を間違えているようだ。例えば、膝の屈伸をするのに前面の膝を屈している。極端な場合は、膝頭が足のつま先より前へ出るまで屈している。この習慣は技を掛ける場合も同じである。膝頭が足先より前へ出たら、膝に負担が掛かってしまうので、膝を痛めるのは時間の問題となる。

脚(医学用語では下肢)においては、下肢前面(腹側)の筋を伸筋といい、背面(腰側)の筋を屈筋という。つまり膝は屈筋ではなく伸筋なので、膝は屈するのではなく、伸ばさなければならないのである。(写真 上)従って、膝を折る場合は、背面の屈筋を使って折らなければならないことになる。

屈伸運動でも膝に力を掛けて前に倒すのではなく、下腿を垂直にしたまま、膝に力をいれず、膝の背面の屈筋の力を抜いて、尻を踵につけるように落とすのである。つまり足底と下腿、所謂、足首の角度は基本的には常時直角でなければならない。

この足首の角度が直角であるというのは、合気道だけにかぎったことではない。陸上競技の短距離の走法でも、この角度は大事である。速く走れる選手ほどこの角度は90度に近いのである。因みにカール・ルイス選手は、一番伸びたときと曲ったときの角度を引くと20度といわれる。世界のトップランナーは足首で蹴って走ってはいないのである。また相撲でもこの足首の角度は直角であるようだ。仕切りのときの立ち合いでも直角を維持している。(写真)
脚の前面の伸筋と背面の屈筋を正しく使えば、俊敏な動きができるし、重力を充分活用できるし、体勢を安定させることが出来て、「わざ」(技と業)が掛け易くなる。勿論、膝に負担を掛けないので、痛めることもない。下腿を垂直に下ろし、足首は直角で、脚の伸筋と屈筋を正しく使っていきたいものである。

参考文献 「スポーツ選手なら知っておきたい『からだ』のこと」(大修館書店)