【第632回】  火の息は□(しかく)

前から書いてきているように、合気道は腕力や体力の魄に頼って稽古をしていては精進できないし、体を壊すことになるから、魄に頼らない稽古に変えて行かなければならない。
しかし、そのために何をどう変えて稽古しなければならないのかが問題となる。
そこで、まず、技をつかうに際して、体をつかう前に息で体と技をつかうということを書いた。見える世界から見えない世界での稽古への移行である。

大先生は、「合気道は形のない世界で和合しなければだめです。形を出してからではおそいのです。」また、「形より離れた自在の気なる魂、魂によって魄を動かす」と言われている。
相対稽古の相手と一体化(和合)するためには、目に見える形のある体(魄)でやるのではなく、形のない、目に見えないもの、気である魂で魄の体を動かさなければならないと言われているのである。
しかし、気とか魂はまだ難しいので、まずは息づかいによって体と技をつかおうとしているのである。

このためには息づかいが大事となるわけである。イクムスビや阿吽の呼吸で技と体をつかうのである。体を動かす前に、息をつかって体を動かす。息をイーと吐いて相手と結び、クーと吸って相手を吸収して導き、ムーで決める。特に、引く息が大事であるようだ。

この辺までは分かったし、技もそれなりにこの息づかいでできるようになるが、これまで引く息について、一つどうしても分からないことがあった。
それは、「引く息は□(しかく)」と「□(しかく)は火の形」ということである。
大先生は、「息を出す折には丸く息をはき、ひく折には四角になる。丸くはくことは丁度水の形をし、四角は火の形を示すのであります」といわれているのである。
「引く息は□(しかく)」と「□(しかく)は火の形」のイメージがどうしても湧いてこないのである。どうしても引く息は○で○が火の形だろうと思っていたのである。それで畏れ多くも、これは間違いではないかとさへ思ったこともある。

しかしお蔭様で、この問題も解けることになったので、紹介したいと思う。勿論、この問題を解く鍵も大先生のお教えである。
大先生は、「□は、体の千変万化を出し、月のごとく、現象界における昼夜のごとく、裏観は一元なれど、表観は千差万別運化を意味する」と言われているのである。
つまり、□(しかく)は体を火のように千変万化するが、それは月の昼夜のようで、姿が変わる。月にも表と裏があり、裏面は真っ暗で変わらず一元であるが、表面は満月、下弦、上弦などと千差万別運化する。つまり、一元の裏面が不動の□(四角)であるが、この裏面を土台にして、表面は火で千変万化し、体を千変万化するという事だと思う。
従って、息を引く(吸う)際は、宇宙の気、真空の気を胸中一杯に吸い込むわけだが、そのためには、胸中にしっかりした□を土台にすれば、息を自由自在に吸う事ができることになる。
クーで息が上手く吸えない人が多いが、その原因の一つが、クーの引く息にしっかりした□の土台がないので思い切り吸えないためである。
また、クーの引く息が□となれば、太刀捌きや太刀取りでもできるようになるようだ。