【第625回】  空の気と真空の気の結び合わせ

今回は、前回の『空の気と真空の気』の続きである。前回は、「空の気と真空の気」を研究したが、今回は、技を生み出すために、この「空の気と真空の気」をどのように結び、つかわなければならないのかを研究したいと思う。

技を生み出すために大先生がどうしなければならないと言われているのかを前回引用したのが、「真空の気と、空の気を性と技とに結び合いて、練磨し技の上に科学しながら、神変万化の技を生みだすのであります」(武産合気 P.66)だったが、今回は、その数行後に書いてある、同じ趣旨の次の文章を引用し、合わせて研究することにする:
「呼吸し、息吹きして真空の気を吸い、大地の気、森羅万象の気を性と技とにむすびつけて、練磨し技を生み出して錬磨して出てくる技・・・」(武産合気 P.66)

真空の気と、空の気を性と技とに結び合わすためには、まずは空の気と真空の気を結ばなければならない。
最初に空の気を生み出す。息をちょっと吐き、下腹に息と気を入れるのである。これで引力が生まれ相手と結ぶ。
そして下腹の力を抜かず、弓を引くときのように阿吽の阿で息を大きく吸い、息を上に上げていくと体が気で満ち、体幹、手先から足先まで気が張ってくる。これが真空の気であり、この真空の気が大地と結び、そして技にも相手にも結ぶと考える。これを上記の文で、「呼吸し、息吹きして真空の気を吸い、大地の気、森羅万象の気を性と技とにむすぶ」ということになるだろう・

技を生み出すためには、まずは空の気と真空の気を結ばなければならない。
大先生は、「真空の気、空の気の結びつきによって、森羅万象の阿吽の気と連ねることができ・・・」(合気神髄p95)とも言われているのである。つまり、真空の気、空の気の結びつきによって、相手も含む森羅万象の阿吽の気と一体化できるといわれているのである。

後は、これを技と性に結べば技が生まれることになる。技とは技の形からはじまり、理合いの技、宇宙の法則に則った技と考える。
因みに、「性」(さが)であるが、調べてみると、「性とは、人が生まれながらに持っているもの。生まれつきの性質。持って生まれた性分。ならわし。ならい。習慣」(大辞林)などとなっている。正確にはまだよく分からないが、取り敢えずは「個性」と簡単に考えることにしている。

空の気を生み出さなければ、真空の気は生まれない。下腹に力と気を集めないで、また、それと繋がらずに真空の気は生まれないのである。因みに、技に形がないといわれる所以の一つがこれではないかと思う。性、つまり個性は一人として同じではないから、決して同じ技にならないということである。

空の気は、これまで紹介してきたように、相手に手を取らせた時などの、くっついしまう引力のある重い気である。この気が出来ないと、真空の気が生まれないということでもある。

真空の気を最もよく実感できるのが、太刀捌きである。徒手で正面打ちや横面打ちで打ってくるのを、触れずに体でかわす稽古である。慣れてくれば、木刀でもできるようになる。
まず、相手と空の気で結んでおき、そして相手が切ってきたり打って来れば、その重い空の気を完全に脱し、真空の気と結ぶのである。陰陽、十字の体づかい、阿吽の呼吸をうまくつかえば、太刀を捌くこともできるようになるのである。
合気道の技は何と精妙なのかに、ますます驚かされている。