【第587回】  道しるべ

合気道を始めた頃は誰でも、合気道はすばらしいものだ、いいものに出会ったと感動し、他人に、合気道を始めたことや、やっていることを自慢したりして張り切って稽古をしていたはずである。
それが10年、20年、30年と稽古をしている内に、初めのその感動が薄れていったり、惰性で稽古をしたり、中には辞めていく者もあるのが残念である。

合気道は習い事でもあるわけだから、決してこれでいい、ここまででいいということにはならないはずである。終わりのない稽古を続けなければならないのである。
それでは何故、長年続けてきた合気道の稽古に、意欲を失ったり、辞めることになるのだろうか。
それはまず、目標を持っているかどうかにあると思う。合気道の稽古の目標をどれだけしっかり持っているかどうかに掛かっているということである。それに、合気道、つまり合気道の素晴らしさをどれだけ見つけ、また合気道をどれだけ信じているかに掛かっていると考える。

稽古を始めた頃や、形稽古で形を覚え、形で受けの相手を投げて満足しているうちは、自分の稽古の結果が表れるので、今度は腰投げに挑戦しようなどとか、あいつを二教で決めてやろうとかの目標も持てるし、稽古の意欲もつねに湧いてくるものである。
しかし、このような目に見える次元での稽古も20年、30年と続けていると、必ず壁にぶつかることになる。そしてここで多くの稽古人が悩むわけである。これまでの稽古はできないし、変えなければならない事に気づくのだが、どのようにすればいいのかが分からないのである。

合気道の道しるべが必要になるわけである。先生や先輩に示してもらえれば有難いが、そういう方が居られなければどうすればいいのかということになるが、先ずは一度、合気道の原点に立ち返ることであろう。何も知らなかった時点にもどり、一から勉強し直すのである。

その勉強の一つは、合気道を創られた開祖の言葉が書かれている書籍を熟読することである。『武産合気』『合気神髄』を繰り返し読むことである。
ここには合気道とは何か、合気道の目的、その目的を達成するための稽古法や息づかい、体づかいなど、知るべきことが書いてあるからである。

行きづまったと思ったら、『武産合気』『合気神髄』を読み、その道しるべに従って稽古をしていくことである。今まで合気道についてほとんど何も分かっていなかったことが、まず、分かるはずである。そして、これまでと違って見える力ではなく、見えない世界の心での稽古をしなければならないことなども分かってくるはずである。
そして又、合気道の無限の奥行を感じ、その目標に行き着くことが出来るのかどうか気になるはずである。30年や40年で辞めてなどいられないのである。

壁にぶち当たったり、稽古に以前ほど意欲が無くなってきたら、開祖が示されている「道しるべ」に従えばいい。邪道、外道に押し入らないように、正しい合気の道に導いて下さるはずである。