【第547回】  摩擦連行

合気道は技を錬磨しながら精進していくが、その技が中々思うようにつかえないのは、周知の事実であり、皆が苦労しているわけである。
開祖は、魄に頼らずに、魄は土台にして裏に置き、魂を表にし、魂でやらなければならないと言われるのだが、それが難しい。

そこで何故、それが難しいのか考えてみると、力が十分にできていないとか、未熟であるなどの理由もあるだろうが、最大の理由は、正しい目標とそこに行き着く手段が見えないことだと考える。開祖がいわれている、最終的なゴールであり、理想への行き方である。

そこへは一気に行き着くことはできず、幾つかのやらなければならないことがある。それ故、まずは目標をしっかりと持ち、そしてやるべき事を一つ一つやり遂げていき、その目標(ゴール)に少しずつ近づいていき、そして最後にそのゴールに到達することができるのではないかと考えている。

これまでも、魄に頼らないためには、息(呼吸)が大事であると書いてきた。これもそのゴールに近づくためにやらなければならないことのはずであるが、
今回は、「摩擦連行」作用を生じるようにすれば、更に魄(腕力、体力)に頼らずに、技をつかうことができるということを書いてみる。

天地の息に己の息を合わせることができるようになってくると、今度は、「呼吸が右に螺旋して舞い昇り、左に螺旋して舞い降り、水火の結びを生じる、摩擦連行作用を生じる」(「合気神髄 P.87」のである。この感じは、剣の素振りや四股踏みが分かりやすいだろう。

因みに、摩擦連行作用をもう少し解釈してみると、「摩擦とは、縦と横の息が結び、螺旋で上に舞昇り、下に舞い降りること。連行とは、この螺旋で上に舞い昇るのと下に舞い降りるのが、腕や足の部位、そして、息で、繋がって同時に反作用し合うことである、と考える。

開祖は、「この摩擦連行作用を生じさすことが、できてこそ、合気の神髄を把握することができるのである」(同上)と言われているのである。
つまり、摩擦連行が技をつかう際には必須なのである。
確かに、二教裏はこの摩擦連行作用がなければ、力でやるほかなくなり、魄の技づかいとなってしまう。摩擦連行作用が働く二教裏は、相手に違和感を覚えさせず、自然に倒させてしまい、相手の手首を痛めることもなく、相手が、何故倒れたのか、どのように倒れたのかが一瞬分からなくするような、摩訶不思議な技になるのである。
また、この摩擦連行作用をつかえば、摩訶不思議な力が出、技がつかえるのが分かりやすいのは、座技呼吸法であろう。座技呼吸法で摩擦連行作用が生じさせるコツをつかめば、片手取り呼吸法や片手取り四方投げで手を掴ませる時にも、摩擦連行作用を生じさすことができるようになろう。

摩擦連行作用を生じさせて技をつかえば、腕力や体力の魄に頼るのが減り、魂がより主導権をもつ稽古ができるようである。