【第544回】  武産の武

合気道の目標は宇宙との一体化である。宇宙の法則に合している技を錬磨し、身に着けることによって、宇宙に近づき、そして宇宙と結ぼうとしているわけである。
しかし、そのために技の稽古をするにしても、具体的にどのような稽古をしていけばいいのか、そしてそれがどのように宇宙に結んでいくのかがわからない。

『合気神髄』で、「宇宙と結ばれる武を武産というのである。武産の武の結びの第一歩はひびきである。五体のひびきの槍を阿吽の力によって、宇宙に拡げるのである。五体のひびきの形に表れるのが「むすび」である。すべての元素である。元素は武の形を表わし、千変万化の発兆の主でもある。」(合気神髄 P.86)と開祖は云われている。ここにそのヒントと教えがあると考える。

まず、「武産の武の結びの第一歩はひびきである」とある。宇宙と結ぶ武の第一歩は「ひびき」であるといわれているのである。五体がひびき、そのひびきが宇宙と結ばなければならないのである。
尚、ここで「武」は矛を止める技や禊ぎと考える。真の武道である。
そして、そのひびきが五体に形として表れる。それが「むすび」であるというのである。五体に形として表れるとは、目に見えるものとして、実際表れるということである。

むすび」の「産」とは、生まれるという意味と「結び」という意味がある。つまり、何かが生まれて、何かと結ぶという意味であるはずである。
そしてその生まれる何かを「元素」と云われている。それは産霊(むすび)であろう。
産霊(むすび)とは、相反する二種類のものを合致させることによって新しい物を生み出していく力であるといわれる。
この元素の産霊が形を表わすということであるが、それを、受けの相手をくっつけてしまう引力、と考える。相手の手や胸や肩をこちらの体にくっついた状態は、己自身も、くっつけられた相手も目で見える。

「武産(たけむす)とは引力の練磨であります」とも云われているように、少しでも強力で良質(愛に満ちた)な引力を養成しなければならないわけだが、それは、五体にひびきを産むことになる。つまり、引力ができれば、そこにはひびきがあるということになるはずである。

従って、五体にひびきを産み、引力を養成していくことが、宇宙と結ぶ武産の武のための第一歩ということになるだろう。

これは武産の武の第一歩であるから、更に修業しなければならない。これを土台にして、更に呼吸により、「合気妙用の初歩の導き」に導かれ、そして摩擦連行作用を生じるようし、「合気の真髄」を把握できるようにしなければならないのである。先は長い。