【第519回】  宇宙と一体となる

最近、アインシュタインが残した最後の宿題である「重力波」が捉えられた。二つのブラックホールが一つになったことで、膨大なエネルギーが重力波として地球にも届いたというものである。重力波があるという予言が当たったこと、実際に重力波が存在したこと、この重力波によって宇宙の成り立ちがわかるようになる等、この重力波の発見は人類にとって非常に大きな出来事であるといわれる。

しかし、それは科学者や専門家にお任せして、われわれ合気道家は、この重力波を合気道の関係において捉えることができればよいと考える。この重力波の説明を聞いてまず思ったことは、合気道の技づかいにおいても、この重力波の理合がつかわれているし、つかわなければならないということであった。

二つのブラックホールが近づき、そして一体化して、エネルギーを発生させるということは、合気道での相対稽古で、個々の受けと取りの二人が結び、そして一体化して技が生まれるということである。

開祖は、合気道は宇宙との一体化であるといわれる。開祖にはお出来になっただろうが、われわれ凡人にはとても出来そうに思えない。しかし、この開祖の言葉は合気道修業の目標のはずである。目標がなければ道にならず、修業の意味もなくなる。出来ないまでも挑戦は必要である。目標に到着できないまでも、目標に少しでも、一歩でも近づけばよいだろう。また、自分ができなくとも、後進がその目標に到達してくれればよい。

確かに、人と宇宙との一体化は容易ではないだろう。しかし、開祖は、そのためにいろいろなヒントやアドバイスを残して下さっている。

例えば、「人というのは、造化器官であることを知り、全大宇宙と己は同じということを知らなければならない」(「合気神髄」)、「五体は宇宙の創造した擬体身魂」(「合気神髄」)とか、人は宇宙と同じでシンクロナイズする、ということになるのである。

従って、先述の重力波の稽古をすることは、宇宙の一つの営みを身につけていくことになり、宇宙との一体化への道を進むことになるかと思う。更に、宇宙規模で技の形稽古をしていけばよいだろう。例えば、己と相手を地球と月とか、太陽と地球などと想定して体をつかい、技をつかうのである。

ここには先ず、ふたりの間に地球と月の間にあるところの引力というお互いに引き合う力が発生する、そしてこの引力で結んだまま、お互いが離れないように動くのである。

また、地球の周りを月が回るように、技をかける者が中心となり、受けが回るようにならなければならない。地球が月のまわりを回ったり、月の軌跡を邪魔したり、月を弾き飛ばしてしまうのは、宇宙の法則に反するので止めなければならないことになる。

宇宙でエネルギーを有するものは、ブラックホールにしろ、台風や竜巻や渦にしろ、また、太陽や地球や銀河星雲などにしろ、中心があり、そして中心の働きが重要であるようだ。
合気道で受けの相手に技か掛ける際、体は体の中心からつかわなければ大きな説得力ある力は出ない。手を振り回したのでは大きな力が出ないだけでなく、美しくもない。合気道だけでなく、野球のバッティングやピッチング、踊り、ダンス、楽器の演奏でも、上手な者は皆、体の中心から体をつかっている。

これらの物質的な宇宙との一体化の他に、精神的な宇宙との一体化があるはずである。開祖は、宇宙は宇宙楽園建設のために生成化育を続けている、といわれている。これが宇宙の意志であり、希望ということになる。この宇宙の希望に則った修業をしていけば、己の心、精神が宇宙と一体化していくことになるだろう。

物質的な宇宙との一体化を、先ずは会得していかなければならないだろう。これは見える稽古であり、魄の稽古である。次に、この魄の稽古を土台にして、精神的な宇宙との一体化をしていけばよいだろう。そして、精神的な宇宙との一体化の稽古が、物質的な宇宙との一体化の上になるようにするのである。つまり、これが魂を魄の上にする稽古ということになるのだろう。

魂が魄の上になった稽古をするようになれば、もしかすると、宇宙と一体となることができるようになるかもしれない。

まずは、宇宙と宇宙の心を研究し、それを稽古に取り入れて、宇宙との一体化に進んでいかなければならないと考えている。