【第443回】 宇宙の条理を形にする

開祖の言葉として「合気は、その昔、宇宙の始まりから宇宙全体の条理で働いている」(『合気神髄』)とか、「合気道は、万有万真の条理を明示するところの神示であらねばならない」(『武産合気』)ということがいわれている。

さらに、合気道の技は宇宙の条理を形にしたものである、ということである。宇宙の条理とは、宇宙の営みであり、宇宙の法則であると考える。そこで、その宇宙の営みや条理や法則を、合気道の技でどのように形にしていけばよいのか、を研究しなければならないことになる。

宇宙の条理・営み・法則は、無限にあるはずである。宇宙の「宇」とは空間、「宙」は時間であるから、宇宙の空間的な条理だけでなく、時間的な条理もあるのである。

そこで、今回は「宇宙万有の根源における宇宙の営み」に的をしぼり、合気道の技でどのような形にできるか、研究してみたいと思う。

  1. 上記の聖典には、「大虚空にある時、ポチ(・)一つ忽然と現れる」とある。宇宙万有の根源の現れである。
    これは、合気道の相対稽古では、宇宙万有の根源の現れとして道場に立ち、相手の前に進む、ということになるだろう。
  2. 次に、「そこで、はじめて湯気、煙、霧よりも微細なる神明の気を放射して円形の圏を描き、ポチを包みて、はじめて『ス』の言霊が生まれた。これが宇宙の最初、霊界の初め」とある。
    つまり、己を宇宙エネルギー(神明の気)が包み込み、波動、「ス」の言霊が生まれるようにならなければならないことになる。俗界の顕界から離れ、別世界に入らなければならない。
  3. 「そこで宇宙は、自然と呼吸を始めた。そして、常在(すみきり)、すみきらいつつ、すなわち一杯に呼吸しつつ生長していく。ゆくに従って声が出たのである。言霊が始まったのである。その言霊が「ス」であります」とある。
    宇宙となった己から言霊「ス」が発せられるようになる。精神と肉体の生成化育のための統一である。
  4. 「スが成長してス、ス、ス、すなわち上下左右のス声(十字)となり、丸く円形に大きく結ばれていって呼吸をはじめるのである」。
    このスの言霊が、上下の縦の呼吸(天地の呼吸・腹式呼吸)と、左右の横の呼吸(満干の呼吸・胸式呼吸)に成長し、そして縦と横の呼吸が結ばれ、丸い円形の呼吸になる。天地、宇宙の呼吸との一体化である。
  5. 「ス声が生長して、スーとウ声に変わってウ声が生まれる。絶え間ないスの働きによってウの言霊が生じる」
    片手取り呼吸法の場合、天地の呼吸が整ったなら、ここで手を出して相手につかませることになる。つまり、ここから宇宙の条理を体での形にしていくことになるだろう。
  6. 「ウは霊魂のもと物質のもとであります。言霊が二つに分かれて働きかける」
    相手につかませた手には、霊魂のもとと物質のもとの、二つのエネルギーがあることになる。初心者がこの呼吸法がうまくできない最大の問題は、ここにある。つまり、物質のもとである魄の力を先行させ、そして、頼ってしまうことである。この誤ったつかい方は、伊邪那岐命と伊邪那美命の話にあるように、物質のもと(伊邪那美命)から先に動いてしまうとヒルコ(不完全)が生まれてしまうという教えにもある。霊魂のもと(伊邪那岐命)から動かなければならないのである。
    稽古では、まず、心(気持ち)で技をかけ、体はその気持ちに従うようにしなければならない。魄力、腕力のある相手を制するのは、このようにやるしかないはずである。
  7. 「ウの御霊は両方をそなえている。一つは上に巡ってア声が生まれ、下に大地に降ってオの言霊が生まれる。上にア声、下にオ声と対照で気を結び、そこに引力が発生するのである」。
    つまり、ウの言霊は霊魂のもとと物質のもとの働きのほかに、上に巡る言霊と下の大地に降る言霊の働きがある。そして、上に巡る言霊と下の大地に降る言霊の働きによって、引力が発生するようになる、というのである。
ウ声によって、相手につかませた手を心で動かすと、相手の心を動かし、相手の心が相手の体を動かすことになる。

ウ声が成長すると、上に巡るア声が生まれ、相手が上に導かれる。この時、体重は地に落ちる。これがオ声が生まれることである、と考える。これに合わせて、心と体をつかっていくと、引力のある技がつかえることになる、ということだろう。もちろん、実際の稽古では、ウ声はともかく、ア声とオ声を実際に発するのは難しいだろうから、無声の発声ということになるだろう。

今回は、「片手取り呼吸法」で、宇宙の条理を形にしてみた。これは「座技呼吸法」などの呼吸法にも確実に適用できるだろうし、おそらく合気道の基本技には通用するのではないだろうか。

以上で、宇宙の条理のうち、宇宙万有の根源における宇宙の営みを、合気道の技でどのような形にできるか、研究してみたのだが、前述のように、宇宙の条理は無限にある。他の宇宙の条理をどのように形にしていけばよいのか、さらに研究しなければならないだろう。