【第428回】 ひびきの土台をつくる

合気道の修行の目標は宇宙との一体化である、と開祖はいわれているわけだから、宇宙と一体になるように稽古しなければならないが、これが容易ではない。
日頃の形稽古を通して宇宙と一体となる、ということだが、どうすれば一体化できるのか、それに一体化するとはどういうことなのか、等が不明なのである。

しかし、合気道を創られた開祖がいわれているわけだから、その言を信じて、そして、宇宙との一体化はできると信じて、修行を続けていかなければならないだろう。

常に宇宙との一体化を頭の中に置きながら、技の練磨の稽古をし、開祖の思想・哲学が書いてある『合気神髄』と『武産合気』を少しずつではあるが毎日読んでいる。他の書物と違って、これらの聖典は何度読んでも新しい発見があるものだ。以前読んでも解らなかったことが解るようになったり、以前読んだはずだが、なぜこんな大事な事に注目しなかったのかと、自分の愚かさに腹を立てたりする。

最近は、相対での形稽古で、力に頼らない心の稽古、魄を土台にして魂を前にした稽古に移ってきたところであるが、そうすると上記の聖典も以前より解る個所が増えてきたようだ。自分のつかう技のレベルと、聖典を理解するレベルには、どうも相関関係があるようである。

さて、宇宙との一体化についてである。技が変わったことで、聖典の読み方が変わったというのは、何度も読んだはずの『合気神髄』でこれまでは読み飛ばし、その重要さに気づかなかったのに、今回はじめて宇宙の一体化のための重大なヒントが書かれているのに気がついたのである。宇宙との一体化とは具体的にどういうことなのか、そして、そのためにつくらなければならない土台をどうしてつくるか、が書いてあったのである。

それは、「心身統一に専念し、ひびきの土台を養成」という章であった。それによれば、まず宇宙との一体化とは、宇宙と己の心身がひびき合う、ということである。なぜ両者がひびき合えるかというと、開祖は「五体は宇宙の創造した擬態身魂であるから、(五体は)宇宙の精妙を吸収し、宇宙と同化しているわけである」といわれている。五体、心身は本来宇宙であるから、ひびき合えるはずだ、というのである。

しかし、実際には、宇宙との一体化やひびき合うことは難しいものである。それは、生きていくために闘ったり、物質(魄)を得るべく、競争社会、物質文明など魄の世界で生きてきたので、五体、心身にカスが溜まってしまっているのである、といわれている。だから、合気道で心身をみそがなければならないのである。

宇宙とひびき合い、宇宙と一体化するために、開祖はやるべき事と手順を示されている。それはひびきの土台を養成することであり、そのためには、「まず自己の心を練り、念の活力を研ぎ、心身統一に専心し、ひびきの土台を養成するよう、その方向へと逐時稽古精進することである」といわれている。

「自己の心を練る」とは、己の心を宇宙万有の活動と調和させることであり、宇宙生成化育の心、愛の心ということになるだろう。

「念の活力を研ぐ」であるが、まず念とは、心の中で一定の対象に精神を集中させること、心を集中すること、思い続けること、等の意味であると考える。すると、「念の活力を研ぐ」とは、己の念を我慾ではなく、宇宙法則に結びつけていく、ということになるだろう。

「心身統一に専心する」とは、心と体がバラバラでなく、一つになるようにすることである。そして、心が体の上になり、心のままに動く体をつくることであろう。

そのためには、上述の心を練る事は重要であるが、体も練らなければならない。体をつくってくれた宇宙の意志に従った、生成化育のために機能する体にするのである。体のカスを取り除き、動くべく動くところはさらに動くよう、動くべきでないところは動かないよう、柔軟で強固な体を作り上げていかなければならない。

開祖は「自己の心を練る」「念の活力を研ぐ」「心身統一に専心する」を身につくように稽古をしていけば、ひびきの土台がつくられるといわれている。だから、ひびきの土台が養成されるように、稽古しなければならない。

ひびきの土台ができれば、そこが宇宙との交流のベースになるはずである。宇宙とどのようにひびき合うのか、それが宇宙との一体化になるのか、等などが楽しみである。