【第410回】 別の世界に生きる

合気道の修行目標は、宇宙との一体化である。そのために、宇宙の条理・法則からなる合気道の技を身につけつけるべく、稽古に励んでいるわけである。

ボンベなどの装備をつけずに、深海のグランブルーの世界に潜るフリーダイバーがいるが、100m以上を潜るのは容易ではなく、世界に10人余りしかいないという。100m以上になると、ダークブルーよりも濃いグランブルーの世界になり、そこはまた別の世界である。そこでは世界が変わるだけでなく、フリーダイバーの心も変わるそうである。

フリーダイバーの先覚者であり、世界的に知られたジャック・マイヨール(1927年 4月1日- 2001年 12月22日)(写真)は「深海のグランブルーの世界に入っていくと、もうそこには何の制約も限界もない。心が無限に広がっていく。完全な静寂と平穏、その時、聞こえる音があるんです。宇宙の静寂の中で聞こえるというあの音、聞こえるというより、その音そのものに包まれるのです。宇宙に満ちている命の波動。幻覚ではなく、本当に聞こえるんです。」といっている。

マイヨールがいう音とは、合気道でいう宇宙のひびきである「言霊」と同じようなものであろうと考える。この音である言霊は、聞こえるというより、身を包み込み、宇宙に満ち溢れる命の元の波動として、実際に聞こえるそうである。そして、それは幻覚ではないという。つまり、言霊は幻覚ではなく、実際にあって、聞こえ・感じるもの、ということになる。

マイヨールは、理解が難かしい「気」ということについても、自分自身の体験から述べている。「科学者はこの生命エネルギーの事を上手く説明出来ない。しかし、多くのスピリチュアルな人は知っています。自然と調和して生きる人、心が開かれた人はみな、”プラナ”の存在を知っています。彼らは、深い呼吸を通して、宇宙の母が与えてくれる無限のエネルギーを得ています。空気中にはヨガの言葉で”プラナ”と呼ばれる見えない生命エネルギーがあります。・・・それをしっかりと意識して呼吸するなら、我々は、その生命エネルギーで細胞や組織を満たし、活性化することが出来るのです。」

ここに“プラナ”といわれている生命エネルギーこそ、「気」といわれるものであろう。とすると、「気」は存在するし、それで体の細胞や組織を活性化することができるわけである。科学者にはまだ説明できなくても、スピリチュアルな人にはわかるだろうし、説明ができるという。

合気道では、「気」の稽古もできるし、やらなければならない事であろう。合気道家もスピリチュアルな状態になれば、「気」がわかることになるだろう。

マイヨールは「自然に寄り添い、自然と調和した時、無限の可能性が生まれる。」「自然や宇宙には、我々には及びもつかない深い英知が秘められています。それを”神”と呼んでも良いし、”仏陀”と呼んでもいい。」「いずれにせよ、その自然の英知に逆らう道を選べば、その代償は必ず私たち自身に帰ってくるのです。」ともいっている。

これは、合気道の教えとまったく同じである、といえるのではないか。合気道の稽古も、別の世界に入って、宇宙を感じ、宇宙を聞くようにならなければならないだろう。