【第331回】 最終目標に向かって

合気道の目標は、宇宙との一体化であるといわれている。そしてまた、「山彦の道がわかれば合気は卒業であります」ともいわれているから、合気道の最終目標は、宇宙とのむすびと交流ということになると考える。

凡人にはとても到達できそうにない目標であるが、合気道を修行している者として、到達できないまでも、目標に一歩でも近づくよう努めなければならないと考えている。

はじめから、できない、無理だと思っていては何もできないから、挑戦するしかない。しかし、ただむやみにやればよいというものではないだろう。目標に到達したり、近づくためには、必ずやるべきこと、そして、そのやるべき順序があるはずである。

ありがたいことに、合気道の目標達成のために合気道をつくられ、そして合気道の目標を達成された植芝盛平翁が、そのためのご経験と教えを残されているので、それを土台にすればいいはずである。

合気道の目標達成のためには、まずは目標を達成され、実体験された開祖植芝盛平翁が言われていることを信じなければならないだろう。

例えば、宇宙とのむすびと交流ができること、自分が宇宙になれること、宇宙のひびき(言霊)を感じ、また、自分の発するひびきを宇宙に響かせることができること、等などを信じることである。

次に、合気道の目標を達成する極意を、開祖は「己の邪気をはらい、己を宇宙の動きと調和させ、己を宇宙そのものと一致させることにある。」といわれている。このために、合気道では技の練磨を通して、己の心の邪心と体のカスを取り除く禊をし、また、宇宙の営みの条理を身につけ、宇宙の動きに調和させようとしているのである。

しかし、この合気の実践は、「宇宙の魂のひびき」で行わなければならないし、「この道は宇宙の道で、この合気の鍛錬は神業の鍛錬となる故、これを実践していくことによって、はじめて、宇宙の力が加わり、宇宙そのものと一致する」というのである。ということは、宇宙のひびきとか神業がわかれば、宇宙になれるはずである。

というよりも、人はそもそも宇宙と同じであるのであって、それに気がつかないだけなのかもしれない。開祖は「人というものは、造化器官であることを知り、全大宇宙と己とは同じということをしらなくてはいけない」といわれている。

宇宙と交流するには、どのような修行をすればよいかについても、開祖は『合気真髄』に「合気妙応の初歩の導きとして」を書き残されている。

天の浮橋に立って、六言霊のタカアマハラと発することにより波動を生じさせると、

  1. 体内の血はたぎり、全身が言霊(ひびき)となって舞い昇るのを感得する。全身が言霊の凝結となる。
  2. 自分の発声と同時に、宇宙の魂線(たましい)にふれ、すると自己が発声しなくとも宇宙は三音(*)となって、丸く外に拡がっていくのを自覚する。
    *注:三音(さんおん)=茶道で,釜(かま)の蓋(ふた)をきる音,茶筅(ちやせん)通しの音,茶碗(ちやわん)に茶杓(ちやしやく)をあてる音(異説もある)。茶席では,これ以外の音を立てないのを理想とする。
  3. そして、一度、言霊を発声すれば、宇宙が自分に集まってくるのを自覚する。
呼吸(いき)も大事である。己の呼吸は己の心のひびきであり、ことごとく天地万有(宇宙)につながっている。従って、「己の心のひびきを、五音、五感、五臓、五体の順序に自己の玉の緒の動きを、ことごとく天地に響かせ、つらぬくようにしなければならない」のである。

例えば、美しい音(音楽、鳥の声等)のひびきには耳を傾けるし(五音)、それを耳や目で楽しみ、時には鳥肌が立つほどに感動する(五感)。更に感動すれば、心臓がどきどきし、息とともに肺が動く(五臓)。最高に感動すれば、身体が震える(五体)。

また、詔を奏上したりお経を唱えると、音が耳にひびき、そして皮膚、内臓にひびき、そして五体を震わせる。五体全体にひびきわたると、周りの空気をひびかせるようになるから、これをさらに天地、宇宙までひびかせればよいのだろう。開祖は常々、祈りはよいといわれていたが、当時はよくわからなかった。そういうものは敬遠していたのだが、やっと開祖がいわれた祈りの意味がわかってきたような気がする。

後は、宇宙と結ばれている武産の武を修行することであるようだ。宇宙の法則に則った技を練磨することによって、宇宙と結び、一体化していくのである。十分に身体を練り、身体のカスをとって、宇宙とむすんでいくのであるが、その結びの第一歩はひびきであるという。

開祖によれば、
  1. (前述したように、)五体のひびきを宇宙に拡げる。そのひびきが「産び(むすび)」として形にあらわれ、これが武の形を表す元素であるといわれる。
  2. 呼吸の凝結が、心身にみなぎると、己が意識しなくとも、自然に呼吸が宇宙と同化し、丸く宇宙に拡がっていくのが感じられる。
  3. その次には、一度拡がった呼吸が、再び自己に集まってくるのを感じる。
  4. このような呼吸ができるようになると、精神の実在が己の周囲に集結して、列座するように覚える。
開祖は、これが合気妙応の初歩の導きであり、合気を無意識に導き出すには、この妙応が必要である、といわれている。

とてもできるとは思えないが、目標に向かって、一歩一歩進んでいくしかないだろう。