【第319回】 ひびきとは

合気道の目標は、宇宙との一体化といわれる。つまり、宇宙のひびきと同一化すること、そして、宇宙と相互交流することである。この宇宙との相互交流を山彦として、開祖は「この山彦の道がわかれば合気は卒業であります」といわれている。

しかし、これは容易なことではなく、そのためにどうしたらよいのかもよく分からない。しかし、合気道を修練しているからには、この目標に辿り着けないまでも、何とか一歩でも近づくようにしなければならない。

ここでキーになるものが、「ひびき」であろう。この「ひびき」がわかれば、先に進むことができそうだし、それがわからなければ、先に進むことはできないようだ。

宇宙のひびきを、開祖は言霊ともいわれており、天火水地の十字の交流によって生みだされる言霊の響きによって、宇宙万物が生成されたのであり、それに習うことが合気の道なのである、といわれている。また、言霊は天底から地底へ、地底から天底へ、らせんを描いて、常に生命をたどっているというのである。

つまり、宇宙のひびきによって、宇宙の万有万物が生成され、そしてそのひびきの言霊が、宇宙にあまねく響き渡っているのである。

「言霊とはひびきですから、宇宙のひびきをことごとく人は身の内に受け止めており、人の動きはすべてことだまの妙用によって動いている」という。

宇宙のひびき、言霊とは、これらのことから、宇宙生成と宇宙完成をするための宇宙の意思であり、宇宙の心ということができそうだ。その宇宙の心を、人は身の内に受け止めているのである。未知の発見や教え、インスピレーション、斬新なアイディアなどなど、自分を超えたところから来たとしか考えられないが、宇宙の心と考えれば理解できそうだ。

また、この宇宙のひびきを受け止め、動いている人にも、ひびきがある。そうでなければ、宇宙との響き合いによる一体化はできないことになる。

しかし、人のひびきとはどういうことなのか。共鳴箱のようにひびくのではないはずだ。もし、人が共鳴箱のように響き合っていたら、世の中騒がしくてしようがない。そんなことを宇宙が望むわけがない。

人のひびきとは、心のひびきだろう。それには、呼吸(いき)の働きが重要のようだ。開祖は「天地万有は呼吸をもっている。精神の糸筋をことごとく受けとめているのである。おのが呼吸の動きは、ことごとく天地万有に連なっている。つまり己れの心のひびきを、ことごとく天地に響かせ、つらぬくようにしなければならない」、また、「息の動きはすべての万有万神へ、己れの精神から発するところのひびきである」といわれている。

つまり、人のひびきとは、目に見える肉体のひびきではなく、心のひびきなのである。こころで思うこと、念ずること、愛することなどなどが、ひびきということになる。

従って、宇宙のひびきと一体化、同調するためには、宇宙の心、言霊と同調しなければならない。宇宙の意思に反したことをやれば、宇宙と同調することはできないことになる。

宇宙のひびきを身に受け止め、そして、自分の五体のひびきを宇宙に拡げるのが、宇宙との相互交流であり、山彦の道と考える。