【第295回】「一を以って万に当たる」の道(道歌9)

合気道の最終目的は宇宙との一体化であり、そのために、宇宙の営みを形にした技の練磨をしていく。

しかし、技は無限にある。宇宙は有限ではないようだからである。ということは、技を一つ一つ会得したとしても、人の一生とか人類の生存期間中にできることなど、高が知れていることになる。宇宙と一体化できるほど、宇宙の営みを会得する可能性は、ほとんどないようにも思える。

万有万物はすべて、直接間接に繋がっていると考えられる。つまり、万(よろず)が網の目のように結び合っているのである。例えば、人はすべてアフリカの一女性から派生したと言われるから、人は自分の家族だけでなく、他人も外国人も、また時代が変わっても、みんな家族同士であり、誰もが網の目のように繋がり合っていることになる。

万有万物はすべて、137億年前に一つのポチから創造され、万(よろず)が網の目状でこのポチに繋がっているはずである。開祖は、このポチを一元の大神と言われ、この万を創造している大神様を忘れてはいけないと言われている。科学の世界でも、銀河が網の目状に分布していることは確認されている。

また、「脳も網の目であり、進化するものは網の目であろう」(養老猛)と脳学者も言っている。

万(よろず)が網の目状で結び合っているとすると、一つの事を会得できれば、それが無限のものと関係し、結びつくことになる。ということは、一つの技を身につければ、無限の技に結びつくことになるだろう。

例えば、手を十字につかう技を会得すれば、陰陽、円、螺旋などと繋がっていく。また、手から足や体も十字につかい、十字に技を掛けていくようになるはずである。

もっと手近かな例を挙げれば、一教で折れないしっかりした腕ができれば、二教がうまくいくようになるし、小手返しもうまくできるようになり、他の技(形)もどんどんうまくできるようになる。

逆に言うと、一教がしっかりできないと、二教も小手返しもその他の技(形)もできないので、一教とすべての技(形)は繋がっていることになる。

つまり、一つがすべて(「万」)に繋がるということになる。一つというと、宇宙の無限と比べたら、ほんの微々たるものに思えるかも知れないが、実は、このたった一つでも万(よろず)ということになる。つまり、1=∞となる。

それゆえ、小さなように思えるたった一つの技でもよいから見つけ出し、それを身に着けることに、自信と希望をもって取り組まなければならない。それが、技の稽古である。開祖は、これを次のように道歌に詠われている。

日々(にちにち)の わざの稽古に 心せよ 一を以って 万(よろず)に当たるぞ 武夫(ますらを)の道