【第232回】 円と円の内外

合気道の動きの基本は、円であるといえるだろう。正確には、螺旋という円というのだろう。つまり、直線的ではないということである。

従って、技を掛ける時は、直線的ではなく円で掛けなければならない。円と直線の違いは、中心があるかどうかであろう。だから、一見直線的に見えても、中心があって、その中心から遠心力・求心力が出ていれば円である。

ここで円というのは、まん丸の○ということではない。すべての技でまん丸く完全に○く動いたのでは技にならないだろう。トルコのスーフィー(旋回舞踊)になってしまう。まん丸の一部分ということである。たとえ、○の36分の1の10度の角度の円(周)であっても円と考える。

合気道の技を遣うにあたっては、この円が重要である。円には円内、円外、そして円周がある。また自分に円の中心があると同時に、相手も円の中心をもっている。円内は自分の領域であり、円外は相手の領域となる。

従って、自分の領域で技を掛けないと相手を制することは出来ないだけでなく、相手に制されてしまうことになる。

典型的な例として、片手取り四方投げで、はじめの一歩目で相手にぶつかってうまくいかないことが多いようだが、自分の円外、相手の円内でやろうとするからうまくいかないのである。相手の円というのは、相手の手を掴んでいる側の肩が中心になり、その腕が半径となる円である。その中に入っていくのだから自殺行為というしかないだろう。

自分の円は自分の肩や腰が中心になり、その腕(正確には、円の中心から相手と接している接点まで)が半径となるものである。第一歩目で相手の円内に入ってしまうのは、自分の円がつくれず直線的に手足を進めて、相手の円内に入ってしまうからである。肩や腰を中心にした自分の円周上で手を遣わなければならない。

しかし、相手も円をもっているのだから、相手もこちらの円内に入るのは危険と感じ、こちらの円内には素直には入ってくれない。無理にこちらの円内に入れようとすれば、必ず抵抗してくる。

相手に抵抗させずにこちらの円内に入れるには、まずお互いの共通の円の接線上を動くことである。接線であるから、相手の円でもあるので、相手の抵抗はないし、こちらの円でもあるので、危険はない。

まずは、この接線で相手と結び一体化して動くのである。それから、自分の円内に導くのである。相手がこちらの円内に入れば、相手の円外となるから、相手を自分の分身として取りこみ、自由自在にすることができるのである。

開祖は、円内と円外について、「指一本をもって相手を動けなくすることは、誰にでもよく出来るはずである。人間の力というものは、その者を中心として五体の届く円を描く、その円内のみが力のおよぶ範囲であり、領域である。いかに腕力が自慢の者であっても、己れのその円の範囲外には力がおよばず、無力になってしまうものである。」(『合気真髄』)」と言われている。

手が自分の円の外に出てしまうのは、中心がなかったり、中心と結んでいない手を遣っているからである。手だけ動かせば、中心がないので円にならず、ちぐはぐな動きとなる。

肩や腰腹などが中心になって、腰腹と結んだ手を遣えば円の動きになり、手は自分の円外に出にくくなるはずである。手を振り回したり、手捌きは駄目と戒められる理由は、ここにもあるのだろう。

技が上手く掛からない場合、円を考えてみたらどうだろうか。