【第201回】 生産霊(いくむすび)、足産霊(たるむすび)、玉留産霊(たまつめむすび)

開祖は合気道を説明されるにあたって、よく古事記や神道の言葉を使われたので、その筋の専門家や宗教関係者は理解できたかも知れないが、一般の稽古人にはなかなか理解出来なかったと思われる。開祖が当時話されていた言葉が「武産合気」や「合気真髄」にまとめられているのは有難いが、これも文字で見てもなかなか理解出来ないものである。

しかし、合気道を会得するには、それを会得した開祖の言葉を少しでも理解するようにしなければならないと考える。理解するといっても、合気道修練者として技に活かすために理解するということであるから、その筋の専門家のものとは違うかもしれないが、開祖の言葉を、神道用語の解説を調べたり、自分の体で実感したことで解釈してみたいと思う。

今回は、「生産霊、足産霊、玉留産霊」を考察してみたい。

合気道は生産霊、足産霊、玉留産霊によって出来ているといわれる。まず、「産霊(むすび)」とは、神道における観念では「天地・万物を生成・発展・完成させる霊的な働き」とか「天地万物を産(む)し成す霊妙な神霊」(『広辞苑』)とか「人間の身につくと物を発生・生産する力をもつ」(折口信夫)といわれている。 「ムス」は自然に発生する意、「ヒ」は霊的・神秘的な働きのことであるという。

開祖は「生産霊、足産霊、玉留産霊」を△○□(さんかくまるしかく)や松竹梅であるといわれており、「生産霊、足産霊、玉留産霊」を△○□や松竹梅で説明されている。

生産霊は、開祖によれば、まず「乾(いぬい)」であるといわれる。乾とは「物と心のはじまり」を言うという。次に「天の浮橋」であると言われる。
開祖が常々、まずは天の浮橋に立たなければ合気は出来ないといわれていたところの「天の浮橋」である。物事をはじめるにあたっての心と体(魂魄)が整った状態のことである。
また「三角(梅)」であり、三角は気にして力を生じる。また三角法によって武道の初めの仕組みがわかり、天地の気と気結びし、不敗の体勢を取るといわれている。
生産霊を神道では、活動して止まざることを掌り給う神(働き)で、生々発展を意味する働きのものとされる。

合気道の「わざ」を始めるにあたって、宇宙の初めに何もなかったように、相手もいないし、「わざ」(技と業)もないところから、「天の浮橋」に立ち、念と体と息で、三角に動きはじめ、そして止まることなく、生々発展する「わざ」をつくっていく、ということに当たるのではないだろうか。

なお、息遣いに「イクムスビ」という太古からの教え(イと吐いて、クと吸って、ムと吐いて、スと吸い、それで全部、自分の仕事をする)があるが、生産霊を働かせる重要な役割を果たすものと考える。生産霊では、とりわけ最初の「イと吐く」が重要であると考える。これによって三角で進んで行けるし、対象(相手)と結ぶことが出来るからである。

対象と「イ」で結んだら、「クー」と吸う。開祖は「円く吸う」と言われる。「円く吸う」ということは、欠けたものがないように、前後左右上下すべてを吸収することであろう。つまり、無限である宇宙を吸い込むことになる。これが開祖が言われている であり、「宇宙の中心に立つ」ということではないだろうか。

開祖は、これが「気の修行であり、スサノオの神さまになり、力の大王に、武の大王になることである」といわれている。これを「足産霊」(たるむすび)というと考える。「足産霊」の「タル」とは、その働きが満ち溢れて(充足している)状態をいうという。

合気道で技を掛ける場合は、息と念(魂)と対象を吸気で取り入れなければならない。この「足産霊」が技の効き具合に大きく作用する。「息を吸い込む折には只引くのではなく、全部己れの腹中に吸収しなけばならない」(『武産合気』)。吸気に当たって重要なことは、上ではなく下の横隔膜(骨盤底黄隔膜)を遣うことである。

息を全部己れの腹中に吸収したら、四角 に吐くことで己と地、そして天とを結ぶことができるようになる。体と地が結び、妙精は身中に残り、そして地に降ろした息が舞い上がり天と結ぶのである。

円く吸った息と妙精を身中に留めるのが玉留産霊(たまつめむすび又はたまとめむすび)である。ただし吐く折にも、下の骨盤底黄隔膜を遣わなければ、天地と繋がらないだけでなく、宇宙の妙精(力や熱)が身中に胎蔵しない。

これらの「生産霊、足産霊、玉留産霊」の感覚は、技を遣う折に実感できるようだし、四股を踏む時も感じられるようである。