【第20回】 呼吸

合気道の稽古では、呼吸や呼吸力の養成法としての呼吸法を重視している。ほとんど、どの国、どの道場、どの先生でも、稽古は諸手取りや片手取り呼吸法から始めて、坐技呼吸法で終える。今でも、どこでも誰でもやっているわけだから大事であるはずだ。また、合気道の代表的な技といわれる「呼吸投げ」という技は結構あるし、名前の付けようがない技は大概「呼吸投げ」と呼んでいるほど、「呼吸」という言葉をよく使う。

しかし、この「呼吸法」「呼吸力」「呼吸投げ」の「呼吸」が今ひとつはっきりしない。「呼吸」が分からなければ、呼吸力もつかないし、正しい呼吸法も呼吸投げも出来ないことになる。

「呼吸」といえば、一般的に息の出し入れということになり、合気道の初心者はそう考えてやっている。しかし、そうすると「呼吸法」というのは、息の出し入れの稽古法、「呼吸力」は息の容量、つまり肺活量のことになってしまうが、これとは違うだろう。

「呼吸」という言葉は、別に合気道の専売特許ではなく、日本の伝統芸事で「間」のこととして使われていたが、「呼吸法」や「呼吸技」は合気道の特長といわれるものでもあり、合気道の根幹にあるものであろう。従って、ここに「呼吸」「呼吸力」の秘密があるのではないだろうか。

坐技呼吸法や片手・両手・諸手取り呼吸法は技ではなく、呼吸力の養成法である。結果として、相手は倒れるが、倒すのが目的ではない。養成する呼吸力とは、出す力と引く力、つまり陰陽を兼ね備えた力ではないだろうか。従って、呼吸法は、陰陽の二つの力を同時に養成するもので、陰陽それぞれを強化するとともに、陰陽相和してゼロにしたり調整するもので、他の武道や武術、スポーツにはないものであろう。

坐技呼吸法では、一般的にどうしても相手を倒そうとしてしまうので、「呼呼法」(吸収力がない)で相手をはじき飛ばしたり、逃げられたりしてしまいがちである。しかし、上記の陰陽兼ね備えた呼吸力を使ってやれば、元来、相手との接点に腰と大地からの膨大なエネルギーが集まっているにもかかわらず、出るも引くもないゼロの状態となる。

そうなると、相手とくっ付く(結び)ので、相手の気持ちと体勢が崩れ、自分と一体化させることができ、後は自由に相手を処理できるのである。
従って、呼吸投げというのは、この呼吸力で相手と結んで、相手を自分の一部にしてしまい、自由自在に投げることになろう。

しかし、開祖は天地万有がもっている呼吸(イキ)に己が呼吸(イキ)に合していくのが合気道といわれている。先はまだまだのようだ。