【第171回】 宇宙生成化育と遺伝子

合気道は、宇宙生成化育への道であると言われる。言葉を変えれば、合気道は宇宙生成化育のお手伝いをする人を養成するための道ということになろう。人類は500〜600万年以前にチンパンジーから枝分かれして、生まれて死にを繰り返し、世代交代をしながら今に至ったのである。これからも人は生まれて死んでいくを繰り返すわけであるが、これが宇宙生成化育のために必要なことといえるかも知れない。

人は生まれてそして死んでいくが、どうせ死ぬのに生まれてきて、泣いたり、苦しんだりしながら生きることに意味があるのかどうか迷っている人は多いようである。日本では一日10,000人以上の自殺者があることがそれを物語っているのではないだろうか。特に、今の若者や中高年者には多いようである。

人は生まれてくると、親から遺伝子(DNA)を貰う。種としての遺伝子と、他と区別される個性と呼べる遺伝子である。遺伝子は人だけではなく、地球上のすべての生命(動物、植物、微生物)が持っている。人の細胞は約60兆個あり、細胞1個のDNAには約30憶の情報が収められているという。しかし、この30憶の遺伝情報のうちで、人の肉体を構築するために必要とされる情報は5%以下に過ぎないというのである。残りの95%には何が収められているのか、まだよく分っていないということだ。

この残りの95%にどんな情報が収められているかについて、日本遠赤療術学院ホームページ「DNAについて」では、「この95%の中には、生命の元になったアミノ酸から今の人間までの進化情報、本能と呼ばれる生命を守るための情報、これまで人類が遭遇したウイルスやバクテリアや細菌の情報、進化過程で経験した身体不調や病気情報、進化の方向性などの情報が収められている」と述べられている。

私はこのほかに、95%の中には、その人が見たり、聞いたりした行為と経験が情報として記録されるのではないかと考えている。かつて、ミュンヘンのビアガーデンで直射日光の下、ビールを飲みすぎて帰途、倒れて意識不明になったことがあったが、倒れて意識がなくなったとたん、体内のひも状のフィルムが高速で逆回転したのである。倒れた瞬間から前に見たものがどんどん映されて、まるで映画のシーンを見ているようであった。どこまで見たのかは忘れてしまったが、その時そばで介抱していた女房の声が聞こえて、意識が戻ったのである。

時間にして2〜3分であったと思うが、フィルムは10数年前まで戻っていたと思う。まるでDNAの二重螺旋が解けていくような感覚であった。恐らく人が見たもの、やったことは脳だけでなくDNAにも記録されているのではないかと考える。

記憶がDNAに記録されて子孫や後人に遺伝するというのは、今の科学では認められていないようだが、「記憶がDNAに刻まれるということを証明する画期的な事実も将来発見されるかもしれない。」とも言われているので、DNAと記憶の関係もその内に解明されることだろう。

人は先人が構築したものを土台に、更なる構築をしている。先人が持つ遺伝情報を、生殖によったり、また先人や他人が見せたり、影響を与えた情報を記録し、そして新しい自分のDNAを創出しながら進化するのであろう。

人のDNA情報はまだまだ完結していないので、これからも各個人が新たな経験をしてDNAに追加記録し、次世代次々世代と受け継がれ、生命の完成をめざしていくことになるだろう。この生命の完成こそが、宇宙生成化育ということではないだろうか。従って、人は誰でも先人からのDNAを受け継ぎ、それに新たな情報を加え、次の世代に受け渡す義務があることになる。きっと人はそのために生まれ、生き、死んでいくようにプログラムされているのだろう。宇宙生成化育のために。

参考文献:  日本遠赤療術学院 http://www.e-ryoho.co.jp/kenko/dna.htm
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