【第170回】 技は十字で

合気道は十字道ともいうと開祖が言われるよう、合気道では十字が重要な役割をもつ。「手の使い方も十字、足捌きも十字、決ったときの相手の体勢も十字。まさに合気道は十字道、合気十であるといえよう。」(「合気道の思想と技」第109回『十字(続)』

しかしながら、十字はこれだけではない。合気道の技そのものが、十字で構成されていると言える。つまり、合気道の技は十字、十字で掛けていかないと効かないことになる。

十字とは十字架のようなものではなく、縦と横ということである。縦とは上下、垂直の線であり、水平との直下の線」、横とは左右、水平の線である(但し、地面に対しての水平、垂直をいうのではない)。この縦横は基本的には垂直と水平であるが、これが斜めになったりして、十字の円になるわけである。
この十字の動きは、手先の軌跡に現れる。
例えば、「片手取四方投げ」での手先の軌跡は、

  1. 手の平を垂直して取らせた手を相手の中心にぶつける、
  2. 垂直から手の平が下を向くよう90°角度を変えながら、自分の腰腹を中心に横に回し、
  3. 相手が崩れたところで手の平を垂直にし、手を自分の中心線上を縦に振り上げる。
  4. 手は顔面前に保持しながら、「転回足」で方向を転換すると、手先は横に移動する。
  5. そして、自分の中心線上を垂直に切り下ろす。
つまり、「片手取り四方投げ」の手先の軌跡は、縦(1)→横(2)→縦(3)→横(4)→縦(5)と十字になっているはずである。

合気道の技は、四方投げにしろ、一教にしろ、入り身投げにしろ、すべて十字でできていると考えられるが、合気道で重要な呼吸力の養成法である呼吸法の動きも十字である。
例えば、「片手取り呼吸法」での手先の軌跡は、
  1. 垂直に取らせた手を相手の中心にぶつける
  2. 手の平を上に向くように90°反しながら自分の腰腹を中心に横に回し、
  3. 手の平を垂直にし、手を縦に振り上げる。
  4. 手が上ったところから、手の平を下向きに90°反しながら横に開く。
  5. 下向きの手の平が相手の首に接したら手の平を90°反して垂直に立て、下に切り下ろす。
  6. 相手に怪我をさせないため、相手の跳んでくる足をガードする、そして自分の体勢を整えるため両方の手の平を上に向けて納める。
「片手取り呼吸投げ」の手先の軌跡は、手先の軌跡は、縦(1)→横(2)→縦(3)→横(4)→縦(5)→横(6)と十字になるはずである。

人間は向かって来る力に対して、対抗しようとする本能が働くもののようだ。まず意識で反応し、そして体が反応する。そこには、時間差がある。自然な動きに対しては意識も体も反抗してこない。十字の動きは自然であるので、相手は反抗し難いのだろう。

手の軌跡が縦、横、縦と行くべきところを、縦、縦・・等と動くと、この不自然な動きに相手は必ず反抗してくる。そして、争いになるのである。逆にいうと、ぶつかったら動きの縦横を変えてみればよいということになる。

合気道は「手の使い方も十字、足捌きも十字、決ったときの相手の体勢も十字」である他に、手の軌跡も縦横十字でなければならない。技は十字で構成されているということであろう。合気道はますます十字道である。