【第169回】 生花と合気道

合気道とは何か、合気道の修行目的は何か、等の回答にはいろいろあるようだが、一つの回答として、合気道は真善美の探究であるということがある。

おそらく完全な真は善も美も伴っているし、完全な美は真も善を伴っているはずである。合気道で美しい技が遣えれば、武道としても上手いし強いことになり、相手を納得させる真と善を包含していることになろう。

合気道で技を遣う場合、まず美しい動きと形にならなければならない。美しくなければ力も発揮できないし、人を納得させることも出来ない。美を追求することも大切な稽古法であろう。美とは無駄のないこと、多すぎもせず少なすぎもしないこと、と言う事が出来るだろう。この最たるものを自然というし、自然であると表現するのだろう。

美を追求するのは、合気道だけではない。例えば、華道は生花を通して美を追求する道といえる。先日NHK総合テレビの「課外授業」という番組で、未生流(みしょうりゅう)華道家宗家の笹岡隆甫氏が、生花を美しくするための「美の法則」を説明していた。美には法則があるということに、興味を覚えた。合気道の美を探究する上でも共通することがあるようなので、生花と合気道の美の共通法則を見てみたいと思う。

  1. 生花の美の第一法則 「自然を手本にする」
    生花では自然を手本にして、花を生け、室内で自然の世界をつくりだす。少しでも自然に近づくべく、自然を手本にして生けるという。自然と人間が調和した和の美を表わそうとしているのだそうだ。
    合気道でも、自然を手本にしなければならない。自然の法則に則った技と業を遣わなければならない。合気道の自然は宇宙の運行ともいうが、合気道の技は宇宙万生一系につながり、宇宙生成化育の運行を形にしたものと言われるから、技そのものが自然である。その自然の技に自分自身を組み込んでいき、少しでも自然に、そして宇宙と一体となろうとするものである。

  2. 生花の美の第二法則 「引き算をする」
    生花では枝や花や葉の重なっているところを取って、一つ一つを際立させなければならない、という。
    合気道でも無駄な動きを省いて、必要なものだけを残すようにどんどん削っていかなければならない。稽古とは新しいことを覚えるだけではなく、無駄な不必要なものを省くことでもある。稽古は引き算でもあると言える。

  3. 生花の美の第三法則  「三角形をつくる」
    生花では花の形が三角形をつくるようにすると美しくなるという。つまり「直角二等辺三角形に天・地・人の三つの枝を配して、自然と人間の調和した、秩序をもった草木のあるべき姿によって、和の美を表わします。」という。
    合気道では、三角が四つ集まって安定した円になるとか、体を三面に開けとか、撞木といわれる三角になる足遣いをせよと言われる。この三角によって、素早く動くことも、安定した体制を保つことも、自然な力を出すことも出来るようになるので、美しくなるのである。
未生流は江戸時代から続いている華道であるというが、このような明確な美に対する法則を発見し、継承してきた故に、この時代まで継承されてきたのだろう。合気道でも美は重要な要素である。そこには、美の法則があるはずである。それを発見し、身に構築していきたいものである。

参考資料   NHK総合テレビ「課外授業」(未生流華道家宗家 笹岡隆甫氏)