【第109回】 十字(続)

開祖の道歌にあるように、合気道は「十字道」(じゅうじどう)とか「合気十」(あいきどう)とも言われており、十字の重要性が説かれている。

合気道はまず、天之浮橋に立たなければならないという。天之浮橋は丁度魂魄の正しく整った上に立った姿で、十字の姿にならなければならないという。そしてこの十字のところで水火が交流し、むすびがある。(第93回「十字」)

技を掛ける場合には、上記のように宇宙の法則に則ったものでなければならない。この合気道で重要な十字が最もわかりやすい稽古法は、座技呼吸法である。何故なら、先代吉祥丸道主が『合気道技法』に「合気道の発力法として坐法を主としている。坐法の動作は、立法よりも更に困難であり、これを身につけることによって、立法の部(技)も自らこなせるようになる。」(「合気道技法」)と書かれているように、呼吸力の養成は座技あるということと、呼吸力の最適な養成法である呼吸法を兼ね備えているからである。

座技呼吸法の形は、相手に抑えさせた両手首を上げて、側面に倒すものであるが、本来抑えられている手は容易には上がらない。ここでは、十字に体(魄)と気(魂)を使わなければならない。

まず天之浮橋に立たなければならないので、姿勢を正し、十字の縦の|の天地の気を、頭と尾てい骨を貫くように発し、気が螺旋で舞い昇り、舞い降りるようにする。そこで抑えさせた両手を相手の腹にぶつけるように出し、抑えている相手の手首を通して相手の体幹とむすぶ。十字の横の―にその気(火水:カミ)を腹から流す。

しっかりした腹と結んだ腕を通すので、自分と相手は一体となるはずである。一体化すれば持たせている手は上がるだろうが、手を上げたのでは合気道でなくなる。自然に舞い上がるようにならなければならない。そのためには、十字の縦の|に上げる前に、十字の横の―に十字の縦の|を移動することである。重心が片方の足(脛、膝頭)に移ることによって、体の中心にある腹と腰が横に動くので、相手の体が大きく横に振れることになる。一体化している相手はその振れで十字の縦の|に螺旋で舞い上がってくる。左右に振れると、螺旋で舞い上がり、一元の十字の縦の|に帰し、相手を自由に処理できることになる。

この稽古法は、「合気道はまず天の浮橋に立たなければならないと言われる。天の浮橋とは火と水の交流という。丁度十字の姿、火と水の調和のとれた世界である。つまり高御産巣日、神産巣日二神が、右に螺旋して舞い昇り、左に螺旋して舞い降り、この二つの流れの御振舞によって世界が出来たという。火と水でカミになり、このカミ(火と水)の根源は一元に帰るが、一元から霊魂の源、物質の根源が生まれる。」(合気真髄)から来たもので、宇宙の法則に則った合気道の稽古法と言えよう。

この十字の法は、合気道のすべての技を掛けるときにも、当然生かされねばならない。正面打一教でも、相手が打ってくる手と交差したら、そのまま縦に切り下ろすのではなく、横に捌いてから切り下ろせば十字となり、倒し易くなる。片手取り四方投げも、持たせている手をそのまま上げるのではなく、一度横に捌くといい。正面打入身投げは、相手が打ってくる手と交差したら、入身してそのまま切り下ろさず、横に捌いた後で足と連動して切り下ろすとよい。

手の使い方も十字、足捌きも十字、決ったときの相手の体勢も十字。まさに合気道は十字道、合気十であるといえよう。

参考文献 『合気道技法』