【第10回】 中丹田

一般的に武道ではいわゆる腹、つまり下丹田を重視する。下丹田に気力を集め、そこから力を出すように訓練し、下丹田を鍛える。下丹田は臍下丹田(せいかたんでん)」といわれる人体で最大の要所である。臍下1寸3分から3寸辺りを言う。臍下丹田に気力が充実していないと何をやっても成功しない。
下丹田を鍛えるとしっかりして体力ができ、倒されにくくなるし、相手を制しやすくなる。相手に制せられなためにも、相手を制すためにも必要不可欠であり、武道家だけでなく、武道を嗜まない人でもしっかりした下丹田を持たなければならない。 

下丹田と対照的なのが上丹田である。両方の眉の間から奥へ一寸ほど入った所がそうである。ここは奇魂(くしみたま)が住むところで、知恵を生み出すとされ、宗教は一般的に上丹田を中心に修行されるもののようである。

しかし、合気道はちがっている。これまでの武術や武道は肉体を重視し、下丹田を中心に鍛えてきた。だが、合気道は中丹田をも重視するようになっている。中丹田を重視するということは精神と肉体のバランス、つまり、しっかりした肉体(魄)を精神(魂)が上になって導くということである。

合気道の開祖、植芝盛平翁は常々、合気道は「天の浮橋」に立たなければならない、天の浮橋に立たなければ武は生まれないといわれていた。「天の浮橋は、天の武産の合気の土台の発祥であります。身と心に、食い入り、食い込み、食い止めて、各自自分の体全体が、天の浮橋の実在であらねばなりません。」(「合気道神髄」)ということである。
合気道で、下丹田でもなく上丹田でもなく、中丹田を重視するようになったということは、この「天の浮橋」に立つということと大きく関係するのではないかと思う。