【第995回】 鼻と口の呼吸

気を知り、気を技につかうために息の研究と鍛錬をしてきた。お陰で気というものが分かってきたし、気で技をつかうということも分かってきた。そして気が分かり、つかえるようになるためには息が大事であるという事を確信したのである。

息は口中、腹中、胸中と口、腹、胸でするということが分かったわけであるが、もう一つの息をするモノがあったのである。それは鼻での息づかいである。これまでは口の呼吸は研究してきたつもりだが、不十分であったわけである。口で呼吸をする事は鼻も呼吸しているから、鼻呼吸を無視することは出来ないことになる。

鼻と口の呼吸を意識してこなかったわけだが、技をつかって意識して口と鼻で息づかいをすると、鼻と口の息づかいの関係や違い、鼻呼吸の重要性が見えてくる。
まず、口を結んで鼻だけの呼吸でも手足(体)を動かすことも技をつかうことも出来るし、口だけの呼吸でも体を動かし、技をつかうことはできる。
しかし鼻呼吸だけや口呼吸だけでは十分な力が出ないし、動きが切れてしまったり、いい動きやいい技が出来ないのである。
口呼吸だけで手をつかえば、強力な力は出るもののボツボツ切れてしまう動きになるのである。所謂、魄力となってしまうのである。初心者はこの息づかいで技を掛ける傾向にある。人の本能に近いのでやり易いのだろう。
また鼻呼吸だけでは口呼吸のような大きな力は出ない。しかし鼻呼吸で手(体)をつかえばその動きは切れないのである。
それでは鼻と口呼吸のどちらがいいのかということになるが、結論は鼻と口呼吸を一緒につかうということになる。

我々の狭い顔の中には息をする箇所が口と鼻の二カ所あることになる。宇宙の擬態である人体には無駄なモノはないはずであるから、これには意味があり、それぞれ異なる重要な役割があるはずである。そこで鼻呼吸と口呼吸の違いを意識してつかい、観察していくと次のような事が分かってくる。

鼻と口の呼吸はこのような関係にあり、どちらかが欠ければ息が滞り、体も技も上手くつかえなくなる。よって、鼻と口の両方の呼吸に働いて貰わなければとなる。
因みに、口はモノを食べたり飲んだりする器官であるからなくてはならないものであるが、鼻は口に比べればその必要性をあまり感じないようである。しかし無ければ困る事は分かってくる。鼻がなければ息が上手くできないからである。

体のつかい方や働きを、口、腹、胸まで研究してこれでいいと思っていたが更に鼻に進んだわけである。体の研究にも終わりがなく、極まりないようである。それを大先生は次のように我々に教えておられるのであろう。
「武は体の変化の極まりなき栄えの道なれば、・・・すべて生かすべきものなり。」
思うに、体の探究は極まりなく続くわけだから、これからどんな部位や器官の探究になるのか楽しみである。