【第994回】 天地の中に立つ

合気道の修業の目標は宇宙との一体化である。そのため最近は布斗麻邇御霊の形で息と体と技をつかっている。宇宙の営みと一致した技となるので宇宙との一体化を感じられるし、己も相手もその技に納得しているようだ。
しかし、まだこれでは真から宇宙との一体化しているとの気持ちになれず悩んでいたところである。まだ本当に宇宙の中で、宇宙と一緒に技をつかっているとは思えないのである。つまり、相対稽古で技を練り合っているわけだがよく考えてみれば、二人の小さな人間の世界でのことではないかということである。技は布斗麻邇御霊で宇宙と一緒かも知れないが、やっている空間・領域が宇宙規模ではないのである。

そこで大先生の教えを探してみると、まず、次の道歌が目に止まった。
「天地(★あめつち)に気むすびなして中に立ち心がまえは山彦の道」
つまり、技をつかう際は、天と地の中に立ち、そして天と地と気のむすびである引力で結んでいなければならないということである。これまで布斗麻邇御霊とアオウエイの言霊で、はアの天で、はオの地であることが分かっているし、「上にア、下にオ声と対照で気を結び、そこに引力が発生する」(合気神髄P111)で天と地が結んで引力が発生することも知っている。
天と地が引力で結んでいる中に人は立っていなければならないということになる。そうなると天と地の他に、天と人、地と人も引力で結ばれなければならない事になる。
これが大先生の教えの「天地人和合の理」であると考える。これは宇宙の真理であり、これで技をつかわなければならないと次のようにも言われているのである。
「合気道は天地人和合の理を悟ることです。宇宙の真理のごとくは技に表わすことができます。」つまり、天地人和合の理を悟ること、またこの宇宙真理を技に表わすことは出来ると保証されているのである。

そこで体の動き、取り分け技をつかう手はどうなるかいうと、手は天と地の引力で引っ張られることになる。そして手が上がる場合は天の引力が多少地の引力よりも強く、下げる時は地の引力が天の引力より弱くなるということになる。手は重い手になるが、宙に浮くような手でもある。この手で技を使わなければならないのである。これを大先生は「天地の道理を悟り、顕幽一如、水火の妙体に身心をおき、天地人合気の魂気、すなわち手は宇宙身心一致の働きと化し、上下身囲は熱と光を放つごとく寸隙を作らず、相手をして道の呼吸気勢を与えず、よってもって和し得ることを悟るべし。」と教えておられるのだと思う。
これで手をつかうと合気道の技と体をつかっていると実感できる。これまでにない感覚と気持ちである。

因みに、今探究中の“魂”であるが、上記の「天地人合気の気」の中にもありそうである。つまり天地人の発する気と結び合う引力に関係しているのではないかという事である。