【第991回】 脳科学と合気道
今は大先生の教えである『武産合気』と『合気神髄』を毎日拝読している。繰り返し読んでいるので何十回も読んでいる事になる。しかし、今だに分からない箇所が沢山ある。だから最後まで、いつまでも読み続ける事になるだろう。
この他の本も読むようになった。子供のころや学生時代や勤めていた時代にはほとんど本は読まなかったが、年を取るにつれて本を読むようになってきたのである。読む本は合気道に関係のあるものである。無意識のうちに、これは合気道の上達のためになるだろう、合気道での問題を解いてくれるだろう等と期待して購入し、読んでいるようだ。
今読んでいる本は、『脳の本質』という脳科学の本である。合気道もまだよく分からないが、脳もよく分からない。しかし、合気道は科学であるというし、脳も脳科学ともいわれるように科学があるわけだから科学である。お互い科学であるわけだから、それぞれ分からない事も解決できるし、お互い解決し合う事もできるのではないかと思うのである。
合気道に参考になるような箇所を抜粋してみると次のようなる。「」は同書文、イタリック体は合気道的解釈である。
- 「あらゆる物質は時間と共とともにエントロピー(不確実性)が増大する方向に変化する。つまり、物質はいつか崩壊し無秩序な状態になる。ところが、人間を含む生物は、生体内部に秩序を維持できている。それは、生物が外部からエネルギーを取り入れ、そのエネルギーを利用することで内部秩序を維持している。」(P19)
人の体は年と共に衰えるが、合気道の技の錬磨や禊により、天地宇宙からのエネルギー(息、気、霊魂)を取り入れ体の秩序を維持しているのである。特に年を取ると外部からのエネルギーが必須になるようだ。
- 「ミラーニューロン(鏡のようなニューロン)の発見により、他者の行為を自己の運動に照らし合わせて理解していることが明らかになった。私たちは、他者の行為を自己の身体を通じて把握しているのである。いわば「体でわかる」のだ。一般に「身体性」または「身体化による認知」と呼ばれるもので、脳の本質の一つだといえよう。」(P60)
合気道でも分かるという事は体で分かる事であり、更に体で示せる事である。先生や先輩の技や教えを自己の技や動きに照らし合わせ、いい技や教えに直したり近づけていくのである。
- 「他者が動作しているときには「他者のミラーニューロンが活動し、自分がその動作を見ているときも「自己の」ミラーニューロンが活動しているので、まさに他者の動作を推論しているときには、二人の脳のあいだで信号の同期が起こっているのである。ミラーニューロンは、まさに二者間をつなぐ無線通信のような役割を果たしており、社会的絆形成の基本メカニズムであると考えられている。」(P63)
合気道の相対稽古で技を掛け、受けを取り合っている際はミラーニューロンが働いている両者を一体化しているということだろう。そしてこの無線通信のミラーニューロンこそは気であり、魂であり、そして山彦の道の「ひびき」ではなかろうかと考えている。
- 「生後8〜9か月になると、基本感情と呼ばれる六つの感情(怒り、恐れ、悲しみ、喜び、驚き、嫌悪)が現れという。この基本六感情とは、人種や文化、育った場所などに左右されず人類共通に見られる感情とされる。この基本六感情を、体温や心拍数の変化だけで識別することも可能だ。身体の変化を鍵に感情をより正確に判断することも可能だろう。感情と内臓はつながっているからこそ、体内部に注意を払いコントロールすることが、感情を手なずけることにつながる。」(P92)
天地一体化、神との一体化になるよう息と技と体をつかうことによって、ネガティブな感情もポジティブになるはずである。ネガティブな感情があれば、体内に不具合の箇所があるはずなので、そこを意識して解きほぐせばいい。
- 「意識とは、私たちが今こうして見聞きしたり考えたりしているこの体験をいう。未来の不確実性を考え、その不確実性が最小になるような行為を選択する機能を持って初めて、意識が芽生える。いいかえれば、今ここのことしか考えない生き物は、意識を持っていないし、持つ必要もないことになる。」(P205)
合気道の稽古はまさにこれである。理想の技に今の技を近づけようとすることで稽古をしているという意識が生まれるし、意識が生まれるようにしなければならない。やればいいとか、ただ体を動かしているだけでは稽古の意識は生まれないし、上達もしないことになる。
- 「自己意識の基盤にあるものは、身体の信号(内受容信号:身体のさまざまな部位から送られてくる信号)だ。そのため「自分の身体であること、身体を持っていること」の主観体験が、意識を語る上では不可欠となる。さらには、内受容感覚と外受容感覚(視覚や聴覚など、外界の情報を捉える感覚のことで、五感とも呼ばれる)が統合されたとき、初めて意識が生じることを考え合わせると、身体を持たない存在(コンピュータ、AI)に、私たちのように意識を持つとみることは難しいだろう。」(P219)
体の内と外の情報を統合し、意識を持って合気道の道を精進しなければならないということになるだろう。また、いまの身体を持たないコンピュータに合気道も気の錬磨や魂の学びは難しいだろう。
合気道を他分野と結び付けるのは難しいが、勉強になるから少しでも多く取り入れていきたいと考えている。これからも挑戦していきたいものだ。
参考文献 「脳の本質」 乾敏郎 門脇加江子著 中公新書
Sasaki Aikido Institute © 2006-
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