相対稽古でお互いに力一杯に技を掛け合っていくと、体を細部まで丁寧に使っていかなければならない事を痛感するようになる。これまで大ざっぱに使っていた体を、手の先、足の先、更に体の中までつかわなければならない事がわかってくるのである。分かってくるとは、体が教えてくれるという事である。
最新の体の教えは「仙骨」に働いて貰う事である。仙骨に働いてもらうことによって今まで疑問に思っていたことや上手く出来なかった問題が解決したのである。今回は、仙骨にどのように働いて貰えばいいか、何故、仙骨に働いて貰わなければならないのか等を書いてみたいと思う。
まず、仙骨が働くとはどういう事かであるが、これは一般的に仙骨を立てるとか仙骨を開くということになるだろう。合気道の技をつかうに当っては、腹に集まった気が仙骨を膨らます(仙骨を立てる、開く)事によって、その気が腰、背中、肩、腕と体の表に返る事である。息を吐いて腹中に息(気)を入れ込み、腹と結んだ腹の後ろになる仙骨にその気(息)を引き乍ら気で仙骨を膨らますのである。それによって、体の裏の気が体の表に返り、体を覆うのである。
この気は、布斗麻邇御霊の水火の吐いて→吸って(引く)→吐く・・・の、縮めて→膨らませ→縮める・・・の営みである。
つまり、“う”でまでは息を吐いて腹中に気を集め、
で腹中の気を仙骨に返し、今度は息を引いて
になるということである。
次に、何故、仙骨に働いて貰わなければならないのかである。仙骨には大きな働きが二つある。一つは、上述のごとく裏の気を表の気に返す事である。陰の気を陽の気に返すとも云えるだろう。技は体の表の陽の気で掛けなければいい技は使えないものである。いい技とは真善美を備えた技ということでもある。二つ目は、技を掛ける手を動かす、働かす事が出来ることである。手は無暗に動かしてはならないという決まりがある。相手との接点を、手を動かして使えば合気の技にはならないのである。しかし、手が動かなければ技にならない。この問題を解決するのが仙骨なのである。仙骨からの気で、相手を、接点を動かさずに動かすのである。
勿論、手を動かさずに、仙骨で動かすためには要件がある。その最重要なものが、己の体の凝結である。手だけではなく、足、胴、頭がふらふらしていたり、歪んだり、捩じれていては仙骨は働いてくれない。体の各部(手、足、胴、頭)は十分凝結しなければならないのである。凝結とは凝りかたまることである。
もう一つの要件は水火で仙骨をつかう事である。腹中を縮め、そして膨らませて仙骨をつかうということである。仙骨だけとか、腹と仙骨だけでは仙骨は働いてくれないものである。
仙骨を膨らます(立てる、開く)と手は自然と上がってくる。片手取り呼吸法で手が上がらないのは、体の裏の腹中の力で上げようとするからである。
仙骨が働くと動きに段がつかなくなる。片手取り呼吸法でも正面打ち一教は勿論の事、剣の振り上げでも柔軟体操(開脚等)でも仙骨の働きによって段がつかずに動けるものである。