【第985回】 名人には作品だけでなく名言や教えがある
我々が修業している合気道は植芝盛平先生が創られた武道である。武道の名人が創られた作品と言ってもいいだろう。また、この武道の名人は、我々合気道家のためだけでなく、世の中の人々に対して多くの名言と教えを残されている。
これまで多くの分野の名人を取り上げてきたわけだが、それらの作品だけを紹介したわけでなく、どちらかというとそれらの名人の言葉と教えを書いてきたはずである。作品は合気道の技づかいの参考になったり、目標になる。例えば、合気道が追求している真善美のイメージになる等である。
いい作品をつくる名人は必ず名言や教えを残している。これまでのことから、作品と名言・教えは表裏一体であるということが言えるだろう。素晴らしい作品であれば、その名人はそれに則した素晴らしい名言・教えを発し、残しているという事である。
今回は、人間国宝の漆芸家、木工家である黒田辰秋(1904〜1982)である。(写真左)
例によってNHKで見たわけで本人や作品を直には見ていないが、作品の素晴らしさはすぐ分かった。この時は、生誕120年ということで「生誕120年 人間国宝 黒田辰秋展」を京都で開催中であったが、3月に東京で開催されるとのことなので、その時に実物を見に行くことにした。
放送の中で、この黒田辰秋(敬称略)名人はやはり名言やいい教えも残していた。それを下記にまとめてみる。勿論、合気道家としての名言でもあり、教えになる。(「」)そして合気道家としての一言を書くことにする。(イタリック体)
- 「木が何になりたいのか、木に尋ねる」「木が思うようにならないのは、こっちが悪い。仲間になれたらええ方。」
この木は合気道の稽古では“技”と考える。故に、技が思うようにいかないのは自分が悪い。技と仲よくなれたらいいが、そう簡単ではない、ということだろう。
- 「木の性質をよく知った上で作業をすれば、思うように細工できる。木と仲間になれたら、手を握り合えたら理想的。」
技をよく知った上で技をつかえば、思うように技が出る。大先生は思うように技を出されていたが技をよく知っていたからである。技と仲よくなり手を握り合っておられたわけである。
- 「最も美しい線は削り進んでいく間に一度しか訪れない。削り足りなくとも駄目、削りすぎても駄目。」
合気道の技の最も美しい軌跡も一つであり、力不足でも駄目だし、力を入れ過ぎても駄目となるだろう。
- 「自分の作品は地球と代えられる価値を持っているのか。」
これは、合気道で大先生が云われている「自分自身が魂の錬成をして自分が地球を一呑みにするような、立った姿にならなければなりません。合気道は無限の力を体得することです。」に相当するように思われる。
- 「技術だけだと硬いものになる。どれだけ魂を入れるか。」
合気道で謂う、魄の技、魄力では硬い技になる。魂の技を使わなければならないということである。
- 「感じ取れたのは60過ぎ。時間の過程でわかるから時間がかかる。」
大先生がよく言われていた50,60は洟垂れ小僧ということである。60才ぐらいまで年を取らないと体でわからないということである。一つ一つやるべき事を見つけ、身につけて行くわけだから時間が掛かるのである。
- 「新しいものなどない。昔あったものをつかっているだけ。」
合気道の技も宇宙の営みであるから新しいものではないし、新しくつくるものでもない。しかしこの新しくもなく、昔からあった技(もの)は、新しくもあるのである。何故なら、遠い未来にもあるものであるからである。未来でも、これは昔からあったものといわれるものなのである。本当にいいものは、今も昔もなく、次元を超越しているということである。
- 「工芸の仕事はひたすら『運鈍根』につきる。」
『運(うん)鈍(どん)根(こん)』とは、好運に恵まれること、才走らずこつこつ努めること、そして根気よいことをいう。合気道の修業も正に然りであろう。運鈍根の鈍根は努力すれば出来るが運はどうしようもない。いい主導者に出会える、いい技に出会える、いい教えに出会える等は努力して出来るものではなく運である。運に恵まれるようにもならなければならない。
- 「我々は外を見る事はやすいが、内を見るのは難しい」
周りや他人を見てとやかく言うのが、己自身が見えていないし、反省もしないということだろう。合気道では己の内が見えるようになれば、宇宙が見える(分かる)と言われている。まずは己の内を見えるようにしたいものである。
- 「芸術家でなくて芸術病をわずらうてるものが多い。」
合気道の道場に通っているだけで合気道家ではない。合気道を日々精進してこそ合気道家である。合気道の目標(宇宙との一体化と地上楽園の建設)に向かった修業をするものこそが合気道家であると考える。
以上
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