【第980回】 合気道の稽古を顧みて

この論文は1、000回を目指して書いているが早くも980回となり、残すところ20回となってしまった。残り少なくなったこともあるが、自分がこれまで稽古し研究してきたことをここで少しだけ整理して見たくなったのでそれを記すことにする。いろいろあるが一番後進にも伝えておきたい事にする。恐らく後進達はこの事を知りたいと思っているはずだと思うからである。長年稽古をし、そして年をとらなければ分からない事だからである。

その最大の課題は合気道の稽古法であると考える。私自身もそれが分かっていれば苦労しなかったのにと思うからである。
合気道の基本技を繰り返して稽古をするわけだが、力を抜けとか力をもっと入れろなど先生や先輩に言われたが、力を入れれば相手と争いになるし、力を抜けば相手に痛められてしまうなど、どのように稽古をすればいいのか分からないはずである。
この問題を自分なりに解明し、そのためにはどのような稽古をすればいいのかを記す。

まず、合気道の稽古法には段階があるということである。そしてその段階ごとに稽古法が変わらなければならないという事である。三段階と考える。
第一段階は、入門してからの魄の稽古の段階。腕力や体力主体の稽古の段階である。この稽古は大事な稽古であり、しっかりやらなければならない。この段階の稽古は誰でもやっているので問題ないだろう。

次にこの段階を出て次の段階に進まなければならない。しかしそれが容易ではないのである。魄の稽古からなかなか抜け出せないのである。
何故、魄の技づかいになるかというと、息を吐いて技を掛けているからである。この息を吐いての魄の稽古から抜け出すのは容易ではない。何故ならば、それは人の本能であるからである。所謂、防御本能、攻撃本能である。息を吸っていたのでは力も出なくやられてしまう。
次の段階に進むには、この息づかいを変えなければならないことになるが、この段階にある稽古人には難しい。しかし、合気道にはこの息づかいを変える方法がある。つまり魄の稽古から脱却する方法である。その最適な方法こそ受け身である。先生や上手な先輩、同輩の受け身をとるのである。上手な先生、先輩、同輩は、所謂、“イクムスビ”の息づかい、つまり吐いてー吸ってー吐いてー吸う・・・の息づかいで息をつかい、技を掛けているはずなので、受けもその“イクムスビ”の息づかいに合わせて受けをとるのである。そうすると、体(魄)が柔軟になり、また吐く息は“水”、引く息は“火”で、吐く息の水よりも引く息の火が強烈である事がわかってくることにある。
この段階では、受けをとることが最良の稽古法である。その証は、大先生の受けを頻繁に取っておられた方々はみんな強く、素晴らしい先生や武道家になられたことである。
一つ例を挙げる。私が入門した頃、体が大きく強い坂田先輩がおられた。当時は、もう亡くなられたが千葉和雄先生も内弟子としておられ、坂田先輩とはよく一緒に稽古をされたという。坂田先輩は千葉先生より先輩という事もあり千葉先生より強かったという。しかし或る時、千葉先生は大先生の稽古のお供で一月ばかり道場におられなかったが、一月後に道場に戻られたので一緒に稽古をすると坂田先輩がとても敵わないほど上手く、そして強くなっていたと言われていたのである。大先生の受けで強くなったということである。

また、大先生は弟子たちに受けを取らせて上達させようとされていたことがわかるモノがある。大先生の8mmフィルムの中の岩間道場で二人掛け四方投げで一人の受け(外人)がちょっと不味い受けをとったので注意されたのである。恐らくその受けの外人は息を引くところを息を吐いたために頑張る態勢になったことを大先生は注意されたのだと推測する。折角、教えてやろうとしているのに何たることかと注意されたのでしょう。(写真)

この段階で稽古するためには、合気の技の基本型を覚え、相手の息づかいに合わせて稽古をしなければならないから、相手に負けまい、相手を倒そうなど頑張るのはご法度である。まずはがちがちの体と心を解さなければならないことになる。

上記の準備段階から次の段階(第二段階)に入る。魄から気の稽古の段階である。しかし気は難しいのでまずは息である。息で体(魄)と技をつかうのである。基本の息づかいは前段の“イクムスビ”である。イーと吐いて、クーと吸って、ムーと吐く息づかいである。イーは縦の息、クーは横の息、ムーも横の息であるからイークームで十字になる。十字からは気が生まれる。息から気となるのである。このイクムスビの息づかいも受けで覚えるといいだろう。
気は相手をくっつける引力と固める凝結力がある。気が強ければ強いほど引力と凝結力は強くなる。つまり気の段階では力を出せば出すほど技は効くということになる。力はあればあるほどいいということである。イクムスビの十字でも力一杯やらなければ気は生まれないしつかえない。故に、この段階ではどのようにすれば力が出るようになるのかを探究する事になる。合気道には力が要らないはないことになるわけである。

次の段階(第三段階)は魂の段階である。残念ながらこの段階はまだよくわからないので記すことはできないが、多少分かった事もある。
一つは、稽古の対象である。第一段階の対象は相手、敵である。第二段階の対象は自分自身である。そして第三段階の対象は宇宙である。
二つ目は、優位性である。第一段階の魄より第二段階の気、そしてそれよりも第三段階の魂が優位であるということである。つまり、魄力より気力、気力より魂力が勝るという事である。
この第三の段階はこれまでと違う稽古法になるのだろう。後の残りの20回内で何んとか分かりたいと願っている次第である。