【第978回】 腰の十字

以前から腰は大事であるとはわかっており、論文にも書いてきた。しかし今になると腰の大事さをまだ十分には分かっていなかった事がわかる。特に腰と腹の重要性の違いや腰の働きと腹の働きの違い等である。
勿論、腹も大事な事も分かっていたし、論文にも書いてきた。腰も腹も大事であるがその働きの違いや優劣がはっきりしなかったので“腰腹”とつかってきた。
ここにきてようやく、腹と腰の違いと関係がわかってきたようなので、腰を腹と区別してつかうことになったわけである。

そもそも大先生は『合気神髄』『武産合気』で“腹”という言葉はほとんどつかわれていないようである。つかわれているのは“腹中”という言葉である。
因みに、見つけた“腹”という言葉は「また、武は技と光を結ぶことに力を入れなければなりません。その結びは中心がなければなりません。中心があるから動きが行なわれるのであります。中心は腹であります。腹がガッチリしていれば、心は正勝・吾勝に精進できます。」(合気神髄 P.68)ぐらいである。

という言葉は何カ所も出てくる。例えば、「手、足、の心よりの一致」である。腹の腹中とは違い腰中ではなくである。腰そのものが大事であるということであるはずである。
実際に、技をつかうに際して腰は大事であることは確かである。これまでは相手に力一杯掴ませたり、打たせたりしていなかったが、思い通りに思い切り攻撃してもらうと、これまでのような体づかい、技づかいではそれを制することが難しいことがわかる。呼吸法であれ、正面打ち一教であれ、腰がしっかりし、そしてしっかり働いてくれないと相手を制し、導く事ができないのである。

ここで腰が身体の中心、要である事が心から実感出来るようになったわけである。身体の要は手の要であり足の要となる。腰がしっかりしていれば手も足もしっかりするし、また、しっかり働くということである。これを大先生は先述の「手、足、腰の心よりの一致」であると言われ、大事であると言われていると考える。ということは、技を直接掛ける手は腰で動かし、腰で掛けなければならない事になる。手を動かすのでなく、腰が手を動かす、手が動く・上がるということになるわけである。

手を動かす腰の動きで重要なものが腰の十字である。腰を縦→横→縦・・・と返してつかう事である。縦と横とは、前足方向に対しての腰の向きである。
以前は腹の十字で体と技をつかわなければならないと書いた。この腹の十字づかいから大きな力が出て、技も掛かるようになった事は事実であるから間違いではない。
しかし、腹の十字づかいよりも腰の十字づかいの方が上位であると実感する。腹よりもより強力な力が出るだけでなく、陽の気の力が出るからである。つまり、腹の十字づかいは体の裏でやるので陰の気が出ることになる。魄の気ということである。まだ、相手とぶつかり争う危険性があるわけである。
これに対して、腰の十字づかいは体の表の陽の気であり、相手と一体化しやすい力である。争いも少なくなるはずである。

しかしながら腰の十字づかいはすぐにはできないはずである。やるべき事を積み重ね、そしてやるべき事をやらなければならないからである。
例えば、先述の手、足、腰の一致になるような体をつくらなければならない事。大木のように気を張った塊りとして体をつかう。腰を水火の運化と一緒に十字につかう事。手掌と足底(踵―掌底→小指球―小指球→母指球―母指球・・・を一致させてつかう事等である。